第46話


 全身に感じる熱と痛み。

 一瞬が何十秒にも引き伸ばされるような感覚。


「ぶっ……」


 熱に耐えきれなくなったからか、鼻の粘膜から血が出てくる。

 全身はゆだるように熱いが、情報はしっかりと得ておくべきだ。

 

 近付いていくと、感じる熱は増していった。

 発射口からの距離が近いほど威力は高いらしい。


 今度は右に動いていく。すると一気に感じる熱が減り、楽になった。

 どうやら最も威力が高いのはブレスの中央部で、そこから左右にズレると威力が大きく減じるらしい。


(なるほど、これなら……至近距離でも耐えられるか)


 身体強化を全快で使いながら盾を構え、蛇行しながら近付いていく。

 体感十秒ほどで、マグマブレスの照射が終わった。


 拡張した視界が、バルネラの動きを捉える。

 どうやらブレスを吐くのはかなり体力を使うらしく、少し息が乱れているようだ。

 この好機を逃すほど愚鈍ではない。


 少し悩んだ末、俺は疲れている様子のバルネラ目掛けて盾をぶん投げた。

 そして同時、一瞬で最高速を出して肉薄。

 先ほどまでより顔が下りてきているため、今なら俺の斬撃が届く。


 斬ッ!


「GYAAAAAAAA!!」


 俺の斬撃が、右目に届いた。完全に潰せたわけではないが、表面が切れたので一時的に視覚は奪えただろう。


 うめき声を上げながら、バルネラが暴れ出す。

 その攻撃は、身体が大きい分だけその分予備動作がわかりやすい。


 後先を考えない強引な噛みつき攻撃に剣を合わせる形で、完全に右目を潰すことに成功する。


 即座にぶん投げた盾を回収し、バルネラの右側に回る。

 相手の弱点を突くのは、戦術の基本だ。


「GAAAAAAAAAAA!!」


 どうやら光の柱がなくなると、バルネラは攻撃的になるらしい。 


 あの五本の柱が消えてからは、どれだけ深い傷をつけられてもマグマの中に潜る様子もなく、ただひたすらに攻撃的な行動を繰り返される。


 あの水球の遠距離攻撃はなくなり、攻撃手段は接近戦とブレスだけになった。


 俺は常にバルネラに肉薄しながら、距離を取ろうとする行動を咎めてその状態を維持し続ける。

 距離を詰めすぎているためブレス攻撃をモロに食らうことになるが、その場合はバルネラの首の角度から照射の中心部を避けながら、盾の裏に構えている曲剣でチクチクと相手を削っていくことが可能だ。


 そこから先は、消耗戦だった。

 時折回復は飛んでくるが、距離が離れているせいかその頻度はさほど高くない。


 だがそれなら攻撃を食らわなければいいだけの話だ。

 繰り出される攻撃を脳内にインプットし、攻撃のパターンを把握していく。


 最適な防御、最適な回避、生じる隙とその間隙を縫う一撃。

 身体が大きい分タフネスが高いのが厄介だが、体力が底なしなのは俺も変わらない。


 全身が傷だらけになり、鎧の一部がはじけ飛び、マグマブレスに顔やむき出しの足が焼かれた。

 だが俺の身体はまだ動く。


「おおおおおおおおおおおっっ!!」


 俺の一撃が、とうとうバルネラの前足を切り飛ばすことに成功した。


 そうなれば機動力が落ちたこいつを料理するのはさして難しくない。


 結果としてボロボロになり、鎧は中破してしまったものの……俺は無事、バルネラを討伐することに成功するのだった――。

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