第44話
マグマを帯びたバルネラの全身からは、近くにいるだけでちりちりと肌が焼けるように思えるほどの高熱が発されている。
柄をいつもよりわずかに長めに持ち、身体とバルネラとの間を少しでも離すように意識しながら戦い続けることにした。
「GYAAAAAA!!」
爪の一撃を避けるために、二歩分ほど後ろに下がる。
そして相手が攻撃を放ってくる瞬間に合わせて、アズロナによるカウンターを放つ。
爪の下にあるやわらかい肉の部分を浅く裂くと、バルネラが悲鳴に似た叫び声を上げた。
バルネラの攻撃の中でも一番対処がしやすいのが、爪や尾、噛みつきによる近接攻撃だ。
これに関しては、問題なく対応できる。
動きに慣れてきたおかげで、今ではそのままカウンターに繋げることも容易だ。
身体が大きい分予備動作もデカいからだ。
当然ながらその分だけ攻撃範囲も広くなるわけだが、そこは身体強化で出力を上げた肉体で思いきり跳べば問題なく回避ができる。
バルネラの思考ルーチンもある程度読めるようになってきた。
こうして近接戦をしてまるで成果が得られないとなれば……。
「GUOOOOOO!!」
遠距離攻撃……つまりは魔法を発動させる。
バルネラは飛び上がると、マグマの近くへ寄りながら叫び声を上げる。
するとバルネラの周囲に大量の水球が浮かび上がった。
そして既に三本になっている光の柱のうちの一つが水球の方へ吸い込まれていく。
光が水球の中を通り、屈折しながらこちらへ襲いかかる。
一つ一つの光線が、ボルケーノスコーピオンのものとは比較にならないほどに高速だ。
背中に負っている盾を構えながら、突貫する。
焦げっぽい匂いと腕越しに感じる熱さに耐えながら、狙いをつけられないよう動いていく。
視覚拡張をしているおかげで、盾の中に隠れていても光線とバルネラの動きを読み取ることができるため、余計な攻撃はもらわずに済む。
こうして戦っているうちにわかったんだが、どうやら俺は巨大な盾と相性がいいらしい。
再び盾を背中に負い、後ろから襲いかかる光線を盾で防ぎながらバルネラへと一撃を叩き込む。
前と後ろの両方を同時に確認し続けるのには神経を使うが、今のバルネラは魔法制御に集中している分自分の身がおろそかになっている。
乱暴な動きで尾を叩きつけようとするバルネラに、体内の魔力を爆発させた身体強化で攻撃を放つ。
一閃。
「AAAAAAAAAAA!?」
執拗に攻撃を繰り返したおかげで、ようやく尾を切り飛ばすことができた。
尻から血を噴き出しながら狂乱するバルネラ目掛けて飛び上がり、首あたりの動脈へと一撃を放つ。
が、浅い。
血が吹き出るが、致命傷にはほど遠かった。
バルネラは飛び上がると、そのまま光の柱へと逃げ出すように向かっていく。
バルネラが光柱を通過すると、傷がたちどころに癒えていった。
既に何度かマグマの中に籠もられているので大体のマグマでの回復量はわかっているが、それと比べても明らかに傷の治りが良い。
尾の失血もたちまちに止まり、既にもりもりと再生さえ始めていた。
(あの光柱の使い方もなんとなく掴めてきたな)
あれは簡単に言えば、バルネラ専用の給水スポットのような場所なのだ。
回復をすることもできれば、魔法を使う際には光の柱を利用することで即時に発動させることができるようにもなる。
(あれが全て消えた後、どうなるかが肝か)
ただ光の柱には時間経過で消えていく性質もあるため、既に五本合った柱は三本に減っている。
……今ちょうど二本半になったな。
着実にダメージを与えることはできているが、無論こちらも攻撃の全てを避けられるわけではない。
光線は俺の足や腕など避けきれなかったところにしっかりと着弾しているし、高熱で自身の体力が奪われてもいる。
動きが鈍くなりバルネラの一撃を食らえば、間違いなく致命傷になるだろう。
一度でも攻撃をもらえないだけの近接能力に、全てを避けることが困難な光線攻撃。
マグマと光柱によって回復を使い、持久戦の構えを見せてくる狡猾な魔物。
おまけにまだ使っていないが、これにブレス攻撃まで加わるわけだ。
なるほど、バルネラに挑もうとする冒険者が十年以上も出ないだけのことはある。
……ああ、認めよう。
俺は今、生死の境をたゆたっている。
秤がわずかに触れれば容易に死が襲いかかる、薄皮一枚先に感じる濃密な死の気配。
故に――面白い。
「ふふっ」
この俺が、追い詰められている。
こいつはすごいぞ、装備が足りなかったカイザーコングの時よりよほど素晴らしい。
「――もっと、もっとだ! 俺を楽しませろ!」
「GOOOOOO!!」
俺とバルネラは、再び真っ向から激突する。
残る柱は――あと二本。
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