第42話
「よし、行くか」
「ですね」
深層探索で試運転を行ってから、俺達は頷き合う。
装備の調子は上々。
着用している鎧は羽根のように軽いし、身体強化を使わずともこの深層で行動ができるくらいには熱にも耐えられるようになっている。
手にしている盾もロックタートルより硬度が高く軽いバサルトタートルの甲羅を使っているおかげで、重厚ながらも取り回しが利く重さに調節されている。
ミーシャの方も問題はなさそうだ。
彼女の場合鎧以外に、既に仕上げてもらっている短剣と杖、そしてローブを身に付けている。
このブレイズサウルスの腹のあたりの革を使ったローブは自動で温度調節をしてくれるらしく、これを身に付けてからというもの彼女は水魔法を使わず魔力を温存しながら進むことができている。
俺達の格好もいっぱしの冒険者のようになってきた。
まあ恐らく装備は守護者戦でボロボロになるのだろうが……。
「っと、ここですね」
深層のマッピングは既に終わっており、守護者のいる最奥の空間の場所も把握が済んでいる。
守護者の前にある門は深く潜るほど豪華なものになっており、深層の門はゴテゴテとした装飾がなされ、虹色に輝いていた。
これは話に聞くオリハルコンか何かなのではないだろうか。
持ち帰ったりできないだろうか。
戦いが終わったら、見当してみることにしよう。
開くタイプになっている門をこじ開けると、そこには階段があった。
一段下っていくごとに、誇張抜きで一度は気温が上がっているような気がする。
階段を下りた先にあったのは、火山の最深部と呼ぶに相応しい場所だった。
部屋というには少々広すぎる空間が、そこには広がっていた。
どれだけ全力戦闘をしても支障がなさそうなサイズ感だ。
ただ吹き抜けというわけではなく、十メートルほど先には一応天井も見えている。
今まで潜ってきたところとは、少々趣が違う。
グラベル火山は基本的には暗く、光源はほのかに壁が赤く光るだけなのだが、この守護者の間は非常に明るい。思わず外に出てきたのかと錯覚してしまうほどに。
何故こんなに明るいのか、その理由は二つある。
まず一つ目の理由は、周囲のそこかしこからドロドロに溶けながら強い光を放っているマグマがあふれ出しているからだ。
ドロドロと流れ出しているマグマは流れていくうちに冷え固まるようだ。
何回も流れては固まってが繰り返しているらしく、足下は全体的にでこぼことしている。
空間が広いためマグマの足場のある空間は全体から見るとさほど多くはないが、段差のようになっていて少々踏ん張りが利きづらそうだ。
常に視覚拡張を使い、細かく足下を確認しておく必要があるだろう。
そして明るい二つ目の理由は――目の前にある、まるで天を衝こうかというほどに伸びている五本の光の柱だ。
あれは……ボルケーノスコーピオンが使ってくる熱線のようなものだろうか。
なぜ攻撃手段としてではなくステージのギミックとして光線が存在しているのかは、謎だ。
この深層守護者に挑んでいる冒険者はもう十年以上存在していない。
そのため情報らしい情報はほとんど存在しておらず、俺達は手探りで戦っていなかければいけない。
「装備を作ってもらって正解だったな」
「ですね」
入った瞬間に感じる熱気は、身体強化をフルで使い続けていても暑さを感じるほど。
恐らく装備を調えずに挑めば、暑さにやられまともに戦うどころではなかっただろう。
道中何度も味見したい誘惑に駆られたが、負けなくて良かった。
視覚拡張を使い空間全体を確認するが、守護者の姿はない。
それならと聴覚拡張を使い、空間全体の音を拾う。
始めに感じたのは、些細な空気の震え。
しかしそれが大きくなっていき、そして肌でわかるほどにブルブルと大気が震え出す。
「下……いや、上だッ!」
俺が顔を上げた瞬間、天井を突き破り巨大な魔物が落ちてきた。
「GYAAAAAAAAAOO!!」
間違いない、あいつが……グラベル火山最深部の守護者、バルネラだ。
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