第41話
「いよいよ防具ができあがるんですね!」
「ああ、俺達の方も準備は終わった。試運転をして問題なさそうなら……すぐにでも挑むか」
「はいっ!」
グラバドの街を歩いていると、以前と同様大量の冒険者達の姿がある。
彼らの俺達を見る視線は、この一月半ほどで大きく変わっていた。
「おい、見ろよあの二人……」
「あれが『超級討伐隊』か……一見すると普通の二人組にしか見えねぇが……」
「バカお前、そうやってなめてかかっていった奴らは全員死んでいったんだ。間違っても喧嘩なんか売るんじゃねぇぜ」
「別に殺してはないんだがな……」
俺が呟くと、ミーシャが小さく笑っていた。
たしかに売られた喧嘩は買ったし、あばらの数本は折ったりもしたが、全員しっかり五体満足で返しているぞ。
今の俺達は、控えめにいってめちゃくちゃビビられている。
一日で中層に潜り、更に一日で深層に潜るようになった俺達は、かなりの耳目を引いていた。
そして俺は大剣使いとしてはそこまで大柄でもなく、毎日のように高価な素材を持ち運ぶ俺の姿はかなり目立つ。
その上がりをかすめ取ってやろうとやってきた先輩冒険者達を叩きのめし、その報復にやって来た冒険者もまとめてボコボコにし……ということを繰り返していると、気付けばめちゃくちゃに名前が売れていたのだ。
もしかすると兼ねてからの懸念事項だったパーティー名である『ギルとミーシャ』を『超級討伐隊』に変えたのも良かったのかもしれない。
ちなみに名前そのまま、超級……つまりはSランク魔物を倒すためのパーティーという意味だ。
「最近は私もあまり舐められなくなってきました」
「良いことだろう、冒険者が舐められてもメリットは一つもない」
俺の方の名前が売れてくると、今度はミーシャに突っかかってくるやつらも多くなった。
だがブートキャンプを行い日々強くなっているミーシャにとってはなんら問題にならず。
俺の方もせっかくなのでこれを機会に対人戦の練習をしろと人体の効率的な壊し方について教えさせてもらった。
親指を逆方向に曲げるだけでまともに武器は持てなくなるし、腕や足の骨を折るより肘や膝の関節を壊す方が簡単だ。
ミーシャは自分に襲いかかってきた者達全員にトラウマを植え付け、彼らを回復魔法でしっかりと癒やしてから無傷で帰し続けた。
すぐにぱったりと襲撃が止んだのは、言うまでもないことである。
おかげで今では何をするにも名前が通っていてやりやすい。
店に武器を所持したまま入っても問題がなくなったため、色々と楽になった。
ちなみに狩っていた魔物もめぼしい素材は持ち帰るようにしていたため、俺達は大分金に余裕ができていた。
ダリアへ渡す加工費と生活費を除いたほとんど全てを預金制度のあるギルドへ預けさせてもらっている。
残高はなかなかすごいことになっている。
これで当座は金に困ることもなさそうだ。
軽く露店を冷やかしてから、スミス工房へと入る。
既にそこには、ドヤ顔をしながら腕を組んでいるダリアの姿があった。
「見るっす、この私の最高傑作を!」
彼女がかけてあった布を剥ぎ取ると、そこには俺とミーシャの身体にぴったりと合わせられた真っ赤な鎧がある。
基本的にはブレイズサウルスの硬革を用い、柔軟性が必要なところには伸縮性に富んだレッドタイラントスネークの革を、更に硬度が必要な胸部にはバサルトタートルの素材を使っている。
Aランク魔物の素材を惜しげもなく使っているその鎧は、見る者に美しさを感じさせる何かがあった。
その脇に置かれているのは、巨大な盾だ。
元から黒っぽかったロックタートルの盾は更にその深みと光沢を増している。
バサルトタートルの甲羅を大胆に使い、完全に別物と言っていいほどに仕上がっており、サイズも更に大きくなっている。
持ち運びは大変だが、これなら俺の身体を完全に覆い、ブレス攻撃の余波までしっかりと防いでくれるだろう。
事前に要望していた通りの仕上がりに、思わず笑みがこぼれた。
レッドタイラントスネーク、ブレイズサウルス、バサルトタートル……自分達が狩った魔物がこうして武具になるというだけで、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろうか。
いや、この高鳴りの原因は何も武具だけが原因ではないな。
俺達はこれから守護者へと挑むのだから。
「ん、これはなんだ?」
鎧を装着に盾を身に付けてみると、その裏側に何か白いものがセットされているのがわかる。
シミターにも見えるが……刀身がものすごい湾曲している。
盾に沿うような形で収納できるようにする意図があるのだろうか?
「俺からの選別だ。あまったバサルトタートルの甲羅で作った曲剣だ。防御をしながらでも攻撃できる手段がほしいかと思ってな」
「なるほどな」
盾の裏にセットできるようになっているだけではなく、盾を構えながらでもチクチクと攻撃ができるようにするためのものらしい。
ブレスを乱射されてまともに剣が振れなかったりした場合、お世話になることだろう。
礼を言うと、良いって事よと職人気質な言葉が返ってくる。
「それじゃあ……行くか」
「はいっ!」
俺とミーシャは、ダリア達に見送られながら一新した装備で深層へと挑む。
きっと俺は今日、守護者に挑むことになるだろう。
なぜだかそんな確信にも似た予感がした。
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