第40話
ミーシャのブートキャンプと同時並行で進めている対守護者用の防具作りの方は、順調に進んでいた。
順調とはいっても、当初の予定は微妙に過ぎそうな感じがしているが……ダリアに頼むと決めたのは俺なので、文句を言うつもりはない。
ダリアがウェステリア工房では到底やっていけないとスミスが言っている理由は、彼女と一緒に武具作りをしているうちにだんだんとわかってきた。
彼女は少々、職人気質が強過ぎるきらいがあるのだ。
ダリアは最高の作品を作るために、こちら側の苦労やかかる金銭をまったく考慮しないのである。
「ごめん、各素材をもう二セットずつ持ってきてもらえないっすか?」
素材は俺達の持ち込みなのであまり金はかからなくて助かるのだが、その分新しい素材の提供を求められることが非常に多かった。
ダリアが初めて使う素材ということもあり、まずは素材の性質を調べたり防具に最適な箇所を選定したりと色々と試す必要があるらしい。
既に素材の提供を頼まれるのは三度目だった。
いくら作品に妥協はできない質とはいえ、流石にこんなことをされれば普通の冒険者であればキレて仕事がご破算になるだろう。
……俺か?
俺の方はまったく問題はないな。
今では一人で深層探索ができるようになったミーシャの訓練の合間を縫って狩りにいけばいいだけだ。
教えるだけでは身体が鈍るから、索敵と軽い肩慣らしにはちょうどいいくらいである。
彼女が伝説の武具職人だったりしたらまた話は違うのだろうが、ダリアは将来有望とはいえ、未だほとんど実績を残していないペーペーの新人だ。
たしかにまともに話を聞かれずに一蹴されるのがオチだろう。
そうそう、ミーシャの訓練の方も順調に進んでいる。
やはり実戦の中だと命の危険があるおかげで、成長する速度が段違いに速い。
最初は身体強化と結界の意地だけでひーひー言っていたミーシャだったが、今では水膜とスリップの方も瞬時に使用することが可能になっている。
ただどうやら三つ以上の技術を同時に使うと消費が著しいらしく、今では身体強化と結界を適宜発動したり消したりしながら上手いこ組み合わせて戦うようになっている。
レッドタイラントスネークの牙を使った短剣だと少し長さが足りない場面も多かったので、メインウェポンとしてブレイズサウルスの素材を使った骨槍を作ってもらうことにした。
基本的に戦いは、より遠い距離で戦える者の方が強い。
槍は若干取り回しがしづらいが、使い方が簡単でわかりやすいのもいい。
おかげでより安定して戦うことができるようになっていた。
結界を使っていない時は槍を、使っている時はこちらのダメージを考えずに短剣で特攻と上手く使い分けることで、危なげない場面はほとんどなくなっている。
ボルケーノスコーピオンの遠距離からの攻撃も、彼女には結界があるためまったく怖くないというのも強い。
ミーシャはこのグラベル火山の魔物と、非常に相性がいい。
既に彼女は単身で深層を探索できるほどに、その実力を伸ばしている。
近々Aランクの魔物にも挑戦させようと思っている。
防具の完成に合わせる形で、彼女が三種類の魔物全てを倒すことができるように育て上げるつもりだ。
ダリアとミーシャが頑張っているのを見ていた俺の方はというと、縛りプレイをしながら深層での探索を続けていた。
普通に戦っていても強度的に物足りない以上、なんらかの形で自分に枷をつけないと戦いを楽しむことができないのである。
やはり中でも一番燃えたのは、身体強化禁止縛りだ。
当然ながらその延長線上にある視覚拡張や聴覚拡張も禁止である。
敢えて身体強化を使わず探索を行うことで、俺は自分がどれだけこの技術に頼っていたのかを改めて理解することができた。
そして生身での戦闘の楽しさや、防具の重要性の再確認をすることもできた。
とまあこんな感じに、防具を作り上げるまでの期間はおおよそ充実した日々だったと言っていいだろう。
だが当然ながら本来の目的を忘れたわけではない。
スミス工房から防具完成までの日取りを教えられた俺は、ミーシャにAランクへ挑ませた。
結果は三戦三勝。
戦いの最中別のボルケーノスコーピオンの群れが乱入してくるサプライズもあったが、三匹ともしっかり討伐してみせた。
そしてゆっくりと身体を休めた次の日。
俺達は待ち望んでいた防具がようやくできあがったという連絡を受け、スミス工房へと向かうのだった――。
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