第39話


 このグラベル火山の深層は、子部屋がいくつも連なっている、蟻の巣を複雑にしたような造りになっている。

 なのでマッピングも非常にやりにくいらしい。

 部屋の内部構造が似ているせいで、しっかりと目印をつけておかないとどこに出たかがわかりづらいからだ。


 ミーシャにマッピングをしてもらっている間、俺は彼女のために深層の魔物相手に一対一で戦える状況を整えることにした。


 戦う魔物は……最初はフレアスネークあたりがいいだろう。

 魔法の威力もさほど高くはないし、あいつの噛みつき攻撃であればミーシャの結界なら完璧に防ぐことができるはずだ。


 とりあえず単体で行動しているはぐれのフレアスネークを見つけ、ミーシャをそこへ誘導してやる。


「ここを曲がった先だ」


「了解です……すううっっ、はああっっ……」


 ミーシャは目を瞑ってから、大きく深呼吸をして呼吸と気持ちを整える。

 再び目を開いた時、そこには決意を秘めた目があった。


「――行きますっ!」


 彼女が駆け出すその少し後ろをゆっくりと歩いていく。

 曲がり角のあたりで立ち止まり、じっくりと戦いを観察することにした。


「キシャアアアッッ!!」


 とぐろを巻いていたフレアスネークがミーシャの接近に気付き、迎撃の姿勢に移る。

 身体の後ろ側の筋肉に力を入れ、跳躍しようとしたタイミングで、ミーシャの魔法が光った。


「氷よ!」


 俺が何かある度に水魔法を使わせていたおかげで、出会った頃と比べると水魔法の練度も明らかに上がっている。


 水を出してから氷を出すのではなく、直に氷を出すことができるようになったのだ。

 一瞬のうちに地面が凍り、フレアスネークは足場の急激な変化に思わずつんのめる。


 既にその瞬間には、身体強化を使って接近しているミーシャの姿がある。

 彼女が手に持っているのは、レッドタイラントスネークの牙で作った短剣が握られている。

 手っ取り早く強くなるには、やはり強い武器を持つのがいい。

 カイザーコングの背骨と比べると素材としての質は若干劣るらしいが、それでも深層の魔物相手でもしっかりと通用するくらいには質が高い。


「せいっ!」


 ミーシャはそのままフレアスネークの頭目掛けて短剣を振り下ろす。

 けれどフレアスネークの方も動きが速いため、首を動かして致命傷を食らうのを避けてみせた。


 ミーシャは下手に追撃はせず、そのまま後ろに下がる。

 攻撃に移ったフレアスネークが、彼女目掛けて飛びかかった。


 その間に突如として現れるのは、水の膜だ。

 フレアスネークの跳躍は突如として現れた水膜に勢いを殺されてしまう。

 慌てるフレアスネークの側面に飛び込み、ミーシャはその腹のあたりを強かに切りつけた。


 これもまた、俺が水魔法に感じていた可能性のうちの一つ。

 水を結界のような防御ではなく、相手の攻撃をやわらげるためのクッションとして使う方法だ。


 水には攻撃の勢いを大きく減衰させる効果がある。

 水を溜めた桶を殴ってみればわかるが、水の抵抗はかなり強いため、攻撃をくぐり抜けて届かせるのにもかなり苦労するのだ。


 実際攻撃を受けたフレアスネークは続いて魔法を使うが、水の膜で防ぐことで完全に威力を殺すことができている。

 これがレッドタイラントスネークなどの強力な魔物であったとしても、相手の攻撃を減衰させることができることは大きい。


 今後あらゆる場面で、この水膜は強力な防御手段となるだろう。

 結界を維持しながら身体強化を使い、水膜とスリップで敵の行動を阻害する。

 この四つを長時間使い続けられるようにするのが、当面の目的になるだろう。



「せえええいっっ!」


 ミーシャは徐々にフレアスネークを弱らせ、とうとうその一撃がフレアスネークの頭部を捉えた。

 ぐったりと倒れる蛇にしっかりトドメをさしたミーシャが、こちらを見ながら指でVサインを作る。


 まったく頼もしい限りだ。

 これなら守護者戦とその後に控えている裏守護者戦でも、多いに役に立ってくれそうである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る