第37話
「とりあえず、言われていた素材のうちの一つを持ってきたぞ」
どさりと背負っていた大きい背嚢を下ろすと、大きな音が鳴る。
ちなみにそれでも全てを収納することはできず、蛇皮が背嚢の外に一部こぼれだしてしまっていた。
口の紐を緩めれば、中からはギチギチに詰めていた蛇皮を出てきた。
こいつはもちろん、レッドタイラントスネークのなれの果てだ。
穴を開けてしまわないよう作業をほぼ全てミーシャに任せたおかげで、かなり綺麗な状態で持ってくることができた。
「レッドタイラントスネークの皮……すごっ、加工前のものは初めて見たっす!」
興奮した様子のダリアが、言葉とは裏腹に丁寧な手つきで素材を確認し始める。
ジッと目を皿にして確認していた彼女の額に、わずかに汗が浮く。
「ほとんど傷がない……レッドタイラントスネークの素材にしても、超のつく一級品っすよ。多分っすけど、オークションで売ればかなりの値段になると思うっす」
「そうか」
ちなみに興奮しているダリアとは対照的に、俺の心はひどく落ち着いていた。
落ち着いている……というより虚しいと言った方が正確かもしれない。
「しかもこれ……頭を一撃っすか……」
「ああ」
素材の状態を看破したダリアに頷く。
俺とレッドタイラントスネークとの戦いは、実にあっけなくに終わってしまった。
攻撃を避けながら近付いていき、頭部に一撃。
たったそれだけで勝負が終わってしまったのだ。
レッドタイラントスネークの強みは、火魔法の火力の高さにある。
純粋な近接戦闘能力はさほど高くはなかったのだ。
近接戦に特化している俺とは相性が悪かったといえる。
また、俺の帝申剣アズロナが武器として申し分なかったのもある。
思えば俺がカイザーコングと苦戦したのは、俺がまともな武器がない状態で戦わざるを得なかったせいなのも大きかったのだ。
十分に強力な武器が手に入ってしまった今では、Aランクの魔物であっても大して苦労することなく倒すことができてしまう。
(渇く……渇くな……)
こうも消化不良のまま終わってしまうと、満たされないという思いが募る。
この調子では他のAランクの魔物もどうか、怪しいかもしれない。
これはさっさと装備を整えて、守護者に挑戦してしまった方がいいかもしれない。
「よっ、と! レッドタイラントスネークの革の加工の方はおおよそ一週間前後見てほしいっす」
「その間に残る二体も持ってこよう。どれほどで防具を揃えられる?」
「二人分となると、流石に全部揃ってから半月は見てほしいっすね」
「半月か……」
今日はまだ楽しかったが、深層の狩りも半月もしているうちに慣れてしまうのは間違いない。
それなら素材を集めきってから、もう少し楽しめるような工夫をする必要があるだろうな。
余裕で切り抜ける戦いほどつまらないものはない。
戦いというのは、死線をくぐり抜けてこそだ。
皮をなめして革へ変えるため、薬液に浸し始めるダリアを見ながら、俺は今後の動き方について考えていた。
今日は盾を持っていったが、そのせいでどうしても動きが鈍くなってしまうことも多かった。
今後のことを考えると、明日以降の戦いでは盾なしの方がやりやすそうだな。
身体強化の出力を下げるか、感覚拡張のレベルを落とすか……上手いこと楽しめる落とし所を探していく必要があるだろう。
「このままギルドに行くか」
「ですね、魔石だけでかなりの稼ぎになると思いますよ」
俺とミーシャはそのままスミス工房を後にした。
ギルドで魔石と持てるだけ運んだ素材を売ると、合わせて金貨百枚ほどになった。
スミス工房に渡す金を除いても、豪遊できるくらいの額はあるだろう。
俺達は素材発見のお祝いをということで、少し高めの飯屋に向かうことにした。
今日は酒を浴びるように飲みたい気分だ。
早く守護者と戦いたいな……いっそのこと、装備が整わない状態でやってみるのも一興かもしれない。
「ダメですよ?」
「……何がだ?」
「今、明日守護者と戦おうかなって思ってましたよね?」
「……なぜバレた」
女の勘は鋭いんですという要領を得ているんだかいないんだかわからない答えを口にしながら、ミーシャが歩き出す。
俺はそれについていきながら、露店で適当に飯を買っては食べていく。
なんやかんやで彼女との付き合いも長くなってきた。
守護者との戦いまでならなんとかなるかもしれないが、裏守護者相手の戦いに彼女はついてこれるだろうか。
(……いや、そうだな。せっかく時間があるんだし、この環境を使ってミーシャを鍛え上げるというのも悪くないかもしれない)
彼女の回復能力は有用だ。
裏守護者相手に戦う時も、その力を使ってもらえた方がありがたい。
退屈そうだと思い始めていた深層探索に、光明が見えてきたかもしれないな。
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