第36話


「ふふっ」


 思わず口から、笑みがこぼれる。

 楽しい……楽しいぞ深層の狩りは!


「キシャアアアッッ!!」


 中層のボスでもあったフレアスネークが、その身体を縮こめながら力を溜めた。

 全身を使いこちらに向けて跳躍してくる。

 と同時に口から炎を吐き、直線的な機動を狙うこちらに先手を取られないよう、攻撃をしてみせた。


 だが俺はその手には応じず、俺の動きを阻害するために放たれていた、いわゆる置きの攻撃へと突っ込んでいく。

 全身が火のブレスで焼かれるが、そこまでのダメージはない。


 耐火・耐熱の効果はあるとはいえ、身体強化越しにまったく暑さを感じないわけではない。 チリリと肌を焼かれるような熱を感じながら、アズロナを振るう。


 上段に置いておいた剣を下ろせば、牙をむき出しながらこちらに飛びかかってくるフレアスネークの頭がぐしゃりと潰れる。


「――っと!」


 残心をしている余裕はない。

 拡張した視覚で攻撃を即座に捉え、首を軽く横に動かす。

 すると俺の頭目掛けて放たれた熱線が、うなじのあたりを軽く撫でていく。

 見れば遠くにはボルケーノスコーピオンの五匹の群れが。


「オオオオッッ!!」


 ドラミングをしながらこちらに向かってくるのは、全身を炎で燃やしている大鬼だった。

 こいつはマグマオーガという魔物で、Bランクに位置する魔物である。


 以前戦ったカイザーコングほどの圧は感じないが、火魔法を使って中距離攻撃もこなしてくるため、なかなかにいやらしい。


 さて、次に潰すのは……多少距離が離れていてもボルケーノスコーピオンだな。

 正直なところ、深層の魔物の攻撃の中で、俺の視覚拡張の範囲外からでも攻撃ができるあいつの熱線が一番厄介だ。

 視覚拡張で捉えると同時に身体を動かさなければ、攻撃をもらってしまう。


 マグマオーガの魔法は大して早くないため、避けるのは容易。

 軽く攻撃をかわしながら背を向けて歩き、ボルケーノスコーピオンの下へと駆けていく。


「シッ!」


 交差、同時に尾を切り飛ばす。

 だが三つ切り飛ばせたところでボルケーノスコーピオンが散開したせいで逃してしまった。

 こちらにやってくる尾を失った大蠍のはさみ攻撃をかわしながら、放たれる熱線をかわしながら、少し離れたところから打たれているマグマオーガの火魔法も軽々と避けていく。


「オオオッッ!!」


 マグマスコーピオンのハサミを強引に断ち割り、頭部をぐしゃりと潰す。

 勢いをそのまま利用して横の頭も潰し、振り下ろした剣の慣性を使い飛び上がる。

 もう一体を上から刺し貫いてから、それを引き抜かずにそのまま振り回す。


 こちら目掛けて光線を放つ一体に命中するのを確認しながら、右に。

 最後っ屁の光線を目で見てかわしてから一体を仕留め、同胞の死骸の拘束から抜け出そうとしているもう一体を仕留める。


「これで――仕上げだ!」


 最後にこちらに健気に火魔法を放ち続けていたマグマオーガを仕留めてから、ふぅと息を吐く。


「流石にこれだけ大量の魔物と戦うと、ひりつけていいな」


 攻撃手段のバリエーションがさほどないのがやっかいだが、その点は個体数による繰り出してくる連携の違いで細かい差異が出るのでなかなか飽きない。


 どのような手を打てば最も効率よく敵を倒すことができるか。

 相手の手札とこちらにできることを見比べって最適解を出し続ける。

 この作業はやはり楽しい。

 純粋な強度的な意味では物足りないため、戦闘というより狩りという言い方が適切かもしれないな。


「深層の魔物は基本的にはBランク、稀にAランクの魔物が出現する……だったか?」


「ええ、深層の冒険者が中ボスと呼んでいる魔物がそれですね」


 素材の剥ぎ取りを行うのにも慣れてきた。

 ミーシャと一緒にテキパキと金になる部位を集めてから次に向かう。

 戦闘の数も十を超え、深層でのマッピングも着々と進んでいる。

 ただ俺が探しているAランクの魔物に関しては、未だに見つけることができないでいた。

 ダリアに言われている深層素材は、どれもAランクの魔物のものだ。


 いい加減一つくらいは集めておきたいところだが……と考えていると、常にギリギリまで拡張している聴覚が今までに聞いたことのないズリズリと這うような音を捉える。


 音がフレアスネークより明らかに重い……恐らく当たりだ。

 捉えた反応は、Aランク魔物であるレッドタイラントスネークだろう。


「獲物を見つけた、適当に隠れておいてくれ」


 腹の具合から考えてそろそろ夕飯時だ。

 この一戦を楽しんだら、地上に戻ることにしよう。

 さて、カイザーコングと同じAランク、どれほどのものか……。

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