第35話
魔物の体内には、魔石と呼ばれるものがある。
なんでも魔物が生命活動をしているうちに溜め込んだ魔力が結晶化することで生まれるものらしく、こいつが冒険者の稼ぎの大きなところを担っている。
この世界には魔道具と呼ばれる、魔法の使えない人間でも魔法的な効果を発動させることができる道具がある。
魔石はその魔道具のエネルギー源になるため、常に需要を供給が上回っている。
俺は一応倒した魔物の魔石はあらかた集めた(といっても、集めたのはほとんど俺じゃなくてミーシャだが)。
それら全てを合わせると、金貨二十枚ほどになった。
どうやら中層の稼ぎとしてはこれでもかなり多いらしい。
俺は生活に必要な分を除いて、全てをダリア達に渡すことにした。
深層の魔物の素材を使って防具を作るのは、彼女達も初めてということだった。
防具にかかる費用がおおよそしか計算できないのだと言われたので、それなら実際に作ってから計算してもらうという形にしてしまおうということになったのだ。
金を稼ぎながら素材を集めるため、俺達は現在ショートカットを使い深層までやって来ていた。
「深層に出てくる魔物は覚えているか?」
「はい、この辺りから魔物はほとんど全て火魔法か火のブレスを使ってくるようになります。ギルさんも身体強化を常に使い続けるようにしてくださいね」
「それは問題ない、今も暑さ対策で使ってるからな」
深層になると、底にあるマグマに近付いているからか暑さは更に増している。
生身だと、少し動いただけで汗が噴き出してしまい、まともに動き回ることができるような環境ではない。
深層探索の際には耐熱装備を調えてから冷却のための魔道具を使いだましだまし進んでいくというのが定石のようだが、そんなことをしていては日が暮れてしまう。
身体強化を使い魔力を身体の外側に薄く張り巡らせれば、熱は遮断することができる。
ミーシャも聖魔法を使えばこの中でも問題なく活動することができるため、俺達は中層と大して変わらぬペースで深層を探索することができていた。
「おっ、早速見つけたぞ」
拡張した視覚が複数の敵影を捉える。
近付いてみればそこには、俺の身体二つ分はありそうな巨体をしたサソリが三匹で群れをなしていた。
その身体は薄暗い中でもわかるほどに明るい赤色をしていて、顔の左右には大きなはさみがある。
身体は大きく反り返っていて、尻尾が顔の上のあたりに置かれていた。
あれはたしか……ボルケーノスコーピオンだったか。
気をつけなければいけないのは硬い甲殻とあの尻尾……どれ、一当てしてみるか。
「行ってくる」
そう軽く告げて前に出る。
ボルケーノスコーピオンの知覚能力はさほど高くないらしく、足音を殺せば接近に気付かせることなく剣の間合いまで近付くことができた。
「まずはその厄介な尾からいかせてもらおう」
俺は振り下ろしを放ち、そのまま右に流すように剣を振る。
時折引っかかるような感覚はあるが、グッと力を込めれば問題なく刀身は身体へ沈んでいく。
波形に上下に揺れるアズロナが、顔をつきあわせていたボルケーノスコーピオン達の尻尾を切り取った。
ギルドで集めた情報では、この魔物で一番厄介なのは尾から飛び出す光線だったはずだ。
とりあえず尾を切断してしまえば、その脅威は大きく減じる。
「「「キシャアアアアッッ!」」」
ようやくこちらに気付いたボルケーノスコーピオン達が、そのはさみをこちらに振るってくる。
図体の割に、なかなか動きが速い。
おまけにしっかりと連携を取ることもできるらしく、こちらを包囲する陣形を取っている。
それぞれの攻撃の間に微妙な間があり、きちんとしたコンビネーションプレーもできている。
(なるほど、これが深層の魔物か……)
とりあえず観察をするため、少し大きなモーションを取りながらしっかりと回避していく。
いくら自分より弱いからと言って、相手を舐めていては必ずどこかで負ける。
弱い相手からも必ず何かを学び取ることはできるのだ。
もし学び取ることができないと言うやつがいたら、きっとそいつは全てを知った気になる馬鹿野郎に違いない。
ボルケーノスコーピオンがはさみの攻撃と同時に、火魔法を放ってくるようになった。
三体の近接攻撃と魔法を全て受けきるとなると、流石に厳しい。
一度包囲から抜け出して、すれ違いざまに一体の頭部をかち割る。
そうなれば残る二匹になすすべはなく、そのまま二体とも頭から叩き割ることにした。
蜘蛛の魔物なんかもそうだが、どうやらこのボルケーノスコーピオンも死んだ後も数秒ほどは動き続けることができるようだ。
死んでからの残心も忘れないようにしないとな。
「よし、こいつは軽く剥ぎ取ったら次にいこう」
「了解です」
深層の魔物には、どの魔物も金になる部位が存在している。
ボルケーノスコーピオンの場合は、俺が最初に切り飛ばした尾の先端部分が高く売れるらしい。
尾と魔石だけ回収してから、俺達は更に先に進むことにした。
深層に関しては、今までとは違い地図がない。
多少時間はかかっても、しっかりマッピングしながら見敵必殺の心構えで挑ませてもらおう。
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