第34話


 あれからミーシャと合流した俺は、次の日の朝に再びスミス工房を訪問することにした。

 そこで改めて、これからはこの工房を使って俺とミーシャのための装備を用立ててもらうことを決める。


 基本的にはダリアが設計を行って、足りない部分や直した方が良さそうなところをスミスが直していくというスタイルでいくようだ。


 昨日は酒で酔っ払っていてあまり真剣な話ができなかったので、具体的なところは今から詰めていくことにしよう。


「俺達はまず、バルネラを倒すのに必要な装備を整えたい。必要な素材と加工費を教えてくれ」


「バルネラを、倒すっすか……」


 呆けたような顔をしながらダリアが告げる。


 表の守護者であるバルネラの実力は、Aランク最上位とされている。

 カイザーコングよりは強いだろうが、アズロナがある以上問題なく倒せると思うんだが……何かおかしなことを言っただろうか?


「えっと……レイドとかは組まないんすか?」


「レイド?」


 通常バルネラを狩ろうとする場合、冒険者ギルドなどで現在火山を攻略している複数のパーティーで力を合わせ、大規模な討伐部隊を作成するのだという。

 その討伐部隊のことを、レイドと呼んでいるらしい。


「俺とミーシャで行くつもりだ」


 だが、俺達には無用のものだろう。

 大して連携を取れない仲間がいくらいたところで、ほとんど意味はない。

 素材の配分で揉めたりすることも考えると、やはり二人で討伐してしまった方がいいだろう。


 ちなみにミーシャは大丈夫なのかというと、実は彼女はあまり問題ない。

 ミーシャは俺と出会った時に使っていたあの聖魔法の結界。


 あれはかなり高度なものらしく、使えばどんな攻撃を防ぐこともできるからだ。

 俺の全力の一撃を使ってもヒビが入るだけだったので、実際の耐久度は相当高いだろう。


「――これ、『絶対防御結界』なんですよ!? なんでヒビが入るんですか!?」


「俺が『絶対王者』だからだな」


「理由になってません!」


 というやりとりをしたのは、ガレフォンに向かう道中のことだったか。


 まあというわけで、彼女に攻撃能力はほとんどないが、自分が攻撃を受けることなくサポートを行うことができる。


 あれからまた聖魔法の鍛錬をしているらしいので、防御力はあの頃より更に上がっているはずだ。

 裏守護者を相手にしても、自分の身を守るくらいのことはできるだろう。


「りょ、了解したっす。ええっと、バルネラの討伐記録はしっかりと目を通してるんで、必要な装備は大体わかるっすよ」


 バルネラと戦う場合、装備は良く選ぶ必要があるらしい。

 まず第一にバルネラの出没する最深部がマグマの湧き出す地帯であるため、金属系の武具はほとんど使えない。


 そして第二に、やはり耐熱と耐火装備を整える必要があるということだった。

 彼女の口から出てきたのは、一部中層のものもあったが、基本的には深層に出没する魔物達の素材であった。


 とりあえずそれらの装備を整えるために、中層と深層はサクサク攻略していくことにしよう。


 ギルドで各種素材の買取り額を見た結果、中層と深層では魔物素材の買い取り価格の桁が違った。

 俺達は中層へ入り、敵を蹴散らしていく。


 出てくる魔物はファイアリザードに毛が生えたようなやつらばかりだったため、苦戦らしい苦戦をすることもなく守護者のところへとたどり着くことができた。

 中層のボスは、あちこちに移動をしながらちまちまと火魔法を打ってくる、いやらしい魔物のフレアスネークだ。


 近付こうとすると逃げるのがうっとうしいことこの上なかったが、盾を持って突っ込みながら向こうの進行ルートを絞って動けなくしてやれば、あとは俎板の鯉だ。


 中層を一日で攻略し終え、ショートカットのための鉄札をもらってからスミス工房へと向かう。

 そして集めておいた中層で必要になるという素材をドサリと渡してやった。


「ちゅ、中層を……攻略してきたんすか? 昨日までロックタートルを知らなかったはずなのに……」


「バルネラを倒すんだ、当然だろ?」


 手慰みに持っていた鉄札を見ると、ダリアがごくりと唾を飲む。

 俺が本気であることがわかったからか、彼女の目も真剣な職人のそれに変わる。


「私も最高の仕事をするっす!」


「おう、頼んだぞ」


 俺達は再びご相伴に預かることにして、一緒に良く食べ、良く飲んだ。

 明日は深層探索だ。

 今回ばかりは流石に一日でとはいかないだろう。

 さて……楽しめるような魔物が出てくると嬉しいんだがな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る