第29話
浅層に出てくる魔物は合わせて四種類。
石を投擲してくるスローイングエイプ。
当たると少し熱い程度の火の粉を吐き出してくるミニリザード。
牙に麻痺毒を持つというパラライズスパイダー。
手製の粗末な槍を使っているゴブリンランサー。
正直なところ、どれも相手になるような魔物ではない。
どうやらこの中ではゴブリンランサーが最も強い魔物らしく、その槍にはパラライズスパイダーやミニリザードの牙が使われていた。
「一つ気になったんだが、ゴブリンランサーから槍を取り上げたらただのゴブリンになるのか?」
「冒険者ギルドの見解としては、その場合もゴブリンランサーのまま扱いですね。なんでも普通のゴブリンと比べると、体術なんかが得意だとか」
「なるほどな」
雑談を交わしながら進んでいけるくらいには余裕がある。
中に入ってからはミーシャも氷の使用を解禁したので、彼女の方にもいくらか余裕がありそうだ。
溶けてきたものを定期的に飲んでいるおかげで、喉の渇きもほとんど感じることはない。
「この先に冒険者だ。四人パーティーだが力量は大したことないな」
「えっと、そうしたら……少し迂回しながら進みましょうか」
ガレフォンでの経験で、俺は人間ともめ事を起こすのは非常に面倒だという結論を出した。
下手に絡まれて因縁をつけられても、場合によってはこちらが罪に問われる可能性があるのだから、シャバというのは面倒だ。
わざわざ自分達からリスクを増やす必要もない。
なので俺は視覚拡張と聴覚拡張をフルで使い周囲の生物反応を人間を含めて探知するようにしていた。
地図担当のミーシャには遠回りになろうが魔物が大量に湧いているいわゆるモンスター部屋と呼ばれる部屋に向かおうが、人と遭遇しない進路を選んでもらう。
進む先には魔物しかいないため、探索はサクサクだ。
冒険者パーティーに遭遇することなく、浅層の最奥まで到達することに成功する。
最奥には大きな鉄の門があり、そこを開くとボスと戦うことができるような仕組みになっている。
ボスは一体しかおらず、中層へのショートカットのために必要な素材は一体につき一つしか取れないため、鉄の門の前には冒険者達の列ができていた。
流石にここにいる人達との遭遇を避けるのは難しい。
素直に最後尾に並ぶことにした。
入り口と比べれば数は少ないが……合わせて十一人ほどいるな。
四・四・三という形で三パーティーが待機をしているようだ。
「へぇ、二人か……耐熱・耐火装備もなしでここに来れるだなんて、結構やるな」
「耐熱と耐火は何か違うのか?」
「お前、グラベル火山に来てるのにそんなことも知らないのか……いいか、お兄さん達のアドバイスをしっかりと耳に叩き込んどけよ?」
耐熱というのは熱に耐えることができて、耐火というのは火に耐えられること。
両者は似ているようで実は違う。
簡単に言うと耐熱装備は整えると純粋に熱に強くなるため、この火山地帯での行動が一気に楽になる。
耐火装備の方は、強力な炎の息や火魔法などに対するダメージ量が減るらしい。
火を使ってくることの多いこのグラベル火山では、基本的に耐熱・耐火装備を用意してから潜るのがセオリーなのだという。
特に何も装備せず着の身着のまま見ている俺を見かねたのか、前に並んでいるおっさんは色々と情報を教えてくれる。
中層のファイアリザードという魔物の素材を使い革鎧を仕立てる時に、素材を持ち込めばかなりの値引きをしてもらえることや、グラベル火山の中では水を冒険者に高値で売ることができることなど、わりと使えそうな情報いくつか聞くことができた。
「じゃあ俺達は行くからよ、お前らも気をつけろよ」
門の先に居る魔物が倒されると、大きく一つ銅鑼の音が鳴る。
その音を聞いてから数分ほど待ってから、おっさん達三人組は鉄の門をくぐっていった。
「親切な人達でしたねぇ」
「ああいう奴らもいるんだな」
思えばイオや道案内をしてくれた少年のように、好意的に接してくれるやつらも何人もいた。
そう身構える必要もないなと思い直した俺は銅鑼の音を聞いてから門をくぐる。
「ギャオオオッッ!!」
「ファイアリザード……なるほど、中層の魔物相手に通用するかがここでわかるわけか」
俺はファイアリザードを一刀両断してから、そのまま担いで持ち上げることにした。
最奥の守護者を倒すと、そのまま地上へ戻るまでの脱出路が現れる。
せっかく有用なアドバイスをもらえたのだから、聞いておくことにしよう。
俺達は早速ファイアリザードで装備を整えてもらうために、階段を上っていくのだった――。
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