第30話


 階段を上っていくと、入場口から少し離れたところに通じていた。

 俺達が出てくると入り口は塞がれてしまう。

 次回からここを通れれば楽だなと思っていたのだが、その辺りの横着はできないようになっているらしい。


 このグラベル火山は火口から、火山の中を下っていく形になっている。

 山のサイズはさほどデカくないので、下るのにも大した時間はかからない。


「うわあっ! ファイアリザードが出たぞ……って、人間!?」


「なんだよ、あれ……」


 山を下りていると、周りから大量の視線が突き刺さった。

 ファイアリザードを丸々一匹持ってくるやつはいなかったらしく、とにかく目立っているらしい。


 街に入ると、視線の数は更に増えた。

 とりあえずギルドに向かい、ファイアリザードを解体してもらう。


 こいつは肉もそこそこ美味いらしいので期待だ。

 鎧に必要な分がわからないので、とりあえず革と肉を多めに残し、それ以外は売る形がいいだろう。


 中層へのショートカットを行うためには、守護者の眼球が必要になってくる。

 俺達はファイアリザードの両目と引き換えに、一枚の木札をもらうことができた。

 これを見せれば、ショートカット用の別の入り口を通ることができるようになるらしい。


 解体には時間がかかるということなので、その間に武器・防具屋を見て回ることにした。


 グラバドの街には、グラベル火山の魔物達の素材を使った工房が大量に存在している。

 ただ、店の数がとにかく多い。

 宿に来るまでにいくつも工房から声をかけられるほどに多いのだ。


 これだけ大量にあると良い店を探すのにも一苦労だが、幸い武器の良し悪しなら、一度出向いて剣でも振れば一発でわかる。

 というわけで早速街の中を歩いていく。


「何回も店を変えるのが面倒だから、どうせなら一番腕の良いやつに頼みたいところだ」


「一応軽く情報は集めておきました。ウェステリア工房ってお店が一番質の良い武器を揃えているみたいですよ。ただ……」


「何か問題があるのか?」


「一つ一つの装備が高すぎるせいで、そこで装備を揃えるのが大変らしいです」


「また金の問題か……」


 ウェステリア工房は、このグラバドの街で一番デカい工房らしい。

 複数の工房を持ち、のれん分けをした弟子達の工房を加えればこの街の冒険者のほとんどが、彼らと関わりを持っているということだった。


「とりあえず見に行ってみるか」


「ドレスコードもあるらしいので、しっかりとした服を着ていった方がいいです」


「……どれすこーど?」


 話を聞けば店に装備を買いに行くのに、身なりを整えなければいけないらしい。

 正直なところ面倒なことこの上ないが、話によると腕のいい職人はほとんどウェステリア工房に引き抜かれてしまっている。


 高性能なものを探そうとするのなら、ここへ行くのは避けては通れないと言われれば、我慢するしかないだろう。


 宿に戻って最低限綺麗な服に着替えてから、ウェステリア工房の本店へと向かう。


 そこは俺が今まで見てきた鍛冶屋や武器・防具店とは一線を画す店構えをしていた。


 シックなデザインの外装に、外からでもわかるほどに明るい店内。

 ドアは手をかけずともドアマンが開けてくれ、店内に入ると上品な香りが鼻腔をくすぐった。


 店内の店員達も、皆美男美女ばかりだ。

 そこじゃなくて商品に金をかけろと思うんだが、グラバドだとこれが普通なんだろうか。

 ……いや、そんなことないよな。

 通る時に見てきた店はこんな風ではなかった。


 カウンターへ向かい、用向きを告げる。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなものをお探しでしょうか?」


「深部での戦いに耐えられるだけの装備が欲しい」


「かしこまりました」


 今の俺は大した服は着ていないが、そんな俺を侮るでもなく、男はテーブルの下から何かを取り出す。

 勉強の甲斐あって、俺はここ最近、ようやく、値段を読めるようになった。

 だからこそ俺は、そこに記されている数字を見て、思わず自分の目を疑った。


 高い……高すぎる。


 鎧が金貨二千枚だと?

 武器類も金貨五百枚からと書かれているが、俺の要望に合わせたものを作ろうとすればやはり数千枚はかかる。


 装備全てを整えるのに金貨一万枚はかかるだろう。

 こんなの、一つとして買える気がしないんだが……この街の冒険者は、これで買えるのか?


 中層の素材を使った武具であれば今の俺達でも手が届きそうだったが、それでも値段が高い。

 金貨十枚でアズロナを作ってくれたクセルを知っている分、より高く感じてしまうのもあるかもしれない。


 だが俺達が最終的に目指すのは、この深部にいる表向きの守護者を倒した後に特定の手順を踏むことで遭遇することができるようになると言われている、裏守護者の炎古龍だ。


 俺達は炎古龍相手に必要な装備を揃える必要がある。

 少なくともこの店で、それは現実的ではなさそうだ。


「ありがとうございました」


 それがわかったのであれば、もう用はない。


 こちらにピシッとした礼をする店員達に背を向け、店を出る。

 隣にいるミーシャも、俺と同じく苦い顔をしていた。


「ウェステリア工房が優秀な鍛治師を全て引き抜いてしまうらしいので、最高級品はあそこでしか作ることができないみたいなんです。だからあれだけ強気な値段設定をしても、冒険者達もあそこで装備を買うしかないということのようです」


 なるほど……それならどうするのがいいだろうか。

 中層と深部での稼ぎがどれほどのものになるかはわからないので、そこを確認してみて……それでも貯められそうもなかったら、時間をかけてでも、クセルのところまで戻って作ってもらった方がいいかもしれない。


 ただ毎回行き来をするのは面倒だな。

 何か良い手はないものだろうか……。

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