第28話


 『麺屋花蕾』で激辛料理を堪能した次の日。

 前日に集めていた情報を下に、俺達はグラベル火山へとやってきていた。


 グラベル火山は三つのエリアに分かれており、下っていく度に難易度が上がっていく。


 Eランク狩り場である浅層の洞窟エリア。

 Cランク狩り場である中層の火山窟エリア。

 そしてAランク狩り場である深層エリア。


 まずは味見がてら、洞窟エリアを踏破するつもりだ。

 いけるなら、火山窟の可能なところまで進んでおきたいところではあるな。


「事前に地図は買っているんだったよな?」


「はい、中層まではそこまで高価なものではなかったので、きちんと買いそろえてあります」


 このグラベル火山は狩り場としてバステルの人間が使うようになってから、かなり長い時間が経過している。

 そのため安定に狩りを行うための方法もかなり確立されているのだ。

 安価で買える詳細な地図も、その方法のうちの一つだ。


「しっかし……長いな……」


「はい、大人気ですねぇ」


 これから魔物と戦うのにこんなにのんきに話をしてられるのは、俺達が現在入場のための列に並んでいるからだった。


 グラバドに滞在している冒険者達は、当然ながらグラベル火山の探索を目的に街へとやってきている者達だ。

 そのためこのグラベル火山は、とにかく活気がすごいのだ。


 入場のための列は整列が必要なほど長く蛇行しており、中に入っても浅層では同業者とかち合うのもしょっちゅうなのだという。

 ミーシャの聞いた話では、魔物より同業者に気をつけろなどと言われているらしい。


「ミーシャ、今日中に中層まで行こう」


「了解です」


 ただこれには抜け道がある。

 浅層、中層の最奥部にいるという守護者を討伐しその素材を持っていけば、ショートカットとなる別の入り口からの入場が可能になるのだ。

 たしかに深部を目指しているイオみたいな冒険者がこんな風に長蛇の列に並ぶのは馬鹿らしいからな。妥当な判断だろう。



 待つことしばし、ようやく入場の時がやってくることができた。

 入り口で既にかなり熱いので、ミーシャなんかは既にかなりの汗を掻いている。


 ……俺? 俺は身体強化を薄く使ってるからいつもと変わらんな。

 身体強化は一応耐寒や耐熱効果もある。使ってるだけで熱さはかなりマシになるのだ。


「Cランク冒険者か……グラベル火山はベテランにはいい狩り場だ、頑張って稼いできてくれよ!」


「おう」


 肩を叩いてくる衛兵に、適当に返事を返す。

 彼らが着ているのは一般的な全身鎧ではなく、普通の革鎧だった。

 傍から見ていると、完全に冒険者だな。

 これも暑さ対策なんだろうな。


 中に入ると、即座に視覚拡張と聴覚拡張を同時に行う。

 手に持っている地図と合わせれば、自分の周囲の空間で何が起こっているかはおおよそ把握できる。


 あちらのスペースでは冒険者が戦っていて……こっちの足音は人間の重さじゃないな。

 単体で行動している魔物がいたので、そちらに向かっていく。


「ウッキイイッッ!!」


 現れた魔物はスローイングエイプというEランクの魔物だ。

 簡単に言うと手足が長い、子供サイズの猿だな。

 知能は大して高くはないが、その辺にある石を投擲してくる。


「さて……実戦で使うのは初めてだが」


 ここに来るのに、雑魚魔物は無視して突っ切ってきたからな。

 中に入ると同時、クセルに調整してもらった背骨改め骨剣を手に取った。


 以前はただの骨でしかなかったそれは、たしかに一本の剣へと成形されている。


 背骨のあちこちから左右に飛び出していた小さな骨達は取り去られ、まっすぐな一本の刀身だけがそこにあった。


 持ち手の部分には俺が毛布として使っていたパンサーレオの毛皮を加工した革を使っており、びっくりするほどよく手に馴染んだ。


 何度も粘土を握らされた甲斐もあるというものだ。

 脳裏に、自信ありげに剣を手渡してきたおしゃべりな鍛冶師の言葉が脳裏をよぎる。


『こいつの銘は……帝申剣アズロナだ』


 猿の背骨にしてはずいぶんとご大層な名だが……どれほどのものか、確かめてみようじゃないか。


「行くか……アズロナ」


 瞬身。

 身体強化によって強化された肉体で、スローイングエイプの投石の横を軽々と避ける。

 そのまま彼我の距離を縮め、交差の瞬間にアズロナを脇に叩きつける。


 今までなら内側の骨を砕いていたはずの一撃は、しっかりとした斬撃となって、スローイングエイプの腹を断ち割った。


 くるりと振り返れば、そこには驚きの表情を浮かべながら絶命している猿の姿がある。


「ふむ……良い剣だな」


 これなら深部相手の魔物にしても十分使えそうだ。

 もう一度あの列に並ぶのは勘弁願いたいので、さっさと浅層の守護者とやらを倒してしまうことにしよう。

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