ビッグバトル! 3
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初戦を勝利で飾ったチーム・アバキハラ。
肝油をリーダーとしたチーム・アバキハラには世界中で有名な女性プレイヤーの混沌と、謎の機甲ハンターのメロリンが所属している。
そのためか「バトリング」の運営側から取材陣がやってきた。
「いやいや、リーダーの人徳だなんて、あっはっはっ」
と、インタビューを受ける肝油。ゴヨウには辛く当たるが、彼もチーム・アバキハラのメンバーには良き先輩だ。
肝油の左右には水着に似た戦闘服姿のメロリンと混沌(メロリンのコピーだという)の姿もある。
健康的な色気をふりまく二人に挾まれ、肝油も照れているようだ。バーチャルゲーム内の事であるけれども。
「う〜ん……」
ゴヨウはメンバーから少し離れて、別の戦場の様子を空中に浮かび上がるモニターで観察していた。
今この瞬間、全世界で一万人を越えるプレイヤーがゲーム内イベント「ビッグバトル」に参加しているのだ。
ゴヨウが覗き込むモニターの中では、パーフェクトファイターの異名を持つイプエロンの駆る青いアーマー騎兵「ブルーサンダー」が、十数体の敵部隊を完膚なきまで叩き潰していた。
「キリオはどこだ!」
アーマー騎兵の頭部を開き、イプエロンはコックピットから立ち上がる。
V字カットのセクシー水着の美人だ。彼女は運営側の用意したノンプレイヤーキャラのはずだが、最近は自我に目覚めつつあるようだ。
あるいはイプエロンもまた、混沌とAI女王の融合したメロリンのコピーかもしれない。
(様々な世界で戦いが起きている……)
天の機(はたらき)を知る宿星に産まれた天機星「知多星」ゴヨウは、あらゆる世界で闘争が起きている事を感じ取っていた。
それは人類の未来を守るために繰り広げられる「聖戦」だった。
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「……全くゴヨウめ、こんな女と……」
「ゴヨウってば、こんな女に振り回されて……」
「何じゃと」
「何よ」
宇宙創生の蛇遣い座の女神、ハロウィンの悪夢の顕現マイマイ。
二人の対立は嫁と姑(しゅうとめ)の争いに似た。
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「ここは一体どこだ…… わかるか、ソンショウ?」
「俺にもわかりませんな、チョウガイ様」
百八の魔星の守護神チョウガイ、魔星の一人「入雲龍」ソンショウ。
二人もまた異界の虚無戦線へとまぎれこんでいた。
夏の暑い日差し、ミンミンと響くセミの声。
チョウガイとソンショウの眼前には、無人の駄菓子屋が佇んでいた。店頭にはアイスの入ったケースがキンキンに冷えていた。
「あ、アイスがあるー!」
「たべたーい!」
騒ぐのは五人の子どもだ。幼稚園児と思われる外見をした子どもが五人――
この虚無戦線で出会った子ども達が、普通の子どもであるわけがない。
が、彼らは敵ではないようだ。
「ごめんなさいね、お金持ってないから……」
「いんじゃないの、誰もいないし。ちょっとソンショウ、あんた毒見しなさいよ」
子どもをなだめるフランケン・ナースと、毒見を促すギテルベウスの二人の女性。
フランケン・ナースはハロウィンの守護者(ガーディアン)レディ・ハロウィンに仕える侍女であり、ギテルベウスはハロウィンの夜に現れる妖魔である。
本来ならば敵対する二人なのだが、奇妙にウマが合う。そしてフランケン・ナースはチョウガイと、ギテルベウスはソンショウと恋人同士なのだ。
「あ〜、よく冷えてんな…… 美味いぜ」
「ほら、あんた達も食べなさい。変な味したら吐き出すのよ」
「わーい!」
ソンショウとギテルベウスに促されて、子ども達はケースを開いて各々で好きなアイスを取り出して、食べ始めた。
「暑いから、お店の中で食べようね」
フランケン・ナースは子ども達を駄菓子屋内のテーブルにつかせた。
土気色の肌の全身に縫合痕を刻んだ、ナース服の欧州系女性だ。
頭部に左右一対の電極が生えているが、その穏やかな微笑は聖母のごとくだ。
「ほら、兄貴も」
「うむ……」
チョウガイとソンショウも店先のひさしの下で、立ったままアイスを食べ始めた。
「ここは時間が関係してるみたいね」
ギテルベウスは「死者の書」を開きながらアイスをかじる。ガリ○リ君だ。
「時間だって?」
と、ソンショウ。
「そう、ここは…… 『昭和』という時間の一部みたいね」
「ここは過去の日本なんですか?」
フランケン・ナースがたずねた。どうでもいいが、彼女の豊かな胸を子ども達がキラキラした眼差しで見つめていた。母性を感じているのだろう。
「違うわね、ここは切り取られた時空のごく一部よ」
「よくわかんねえな…… それにこの子達は何だよ? 生身の人間じゃねえはずだ」
ギテルベウスとソンショウは顔を見合わせた。
一体ここは、いかなる時空の狭間なのか。
昭和の日本の町。暑い夏、セミの声、何処かから聞こえてくる風鈴の涼し気な音……
無人という事をのぞけば、非常に穏やかで安らぐ空間だった。
「人々の心が求めている『平和』…… その一瞬が切り取られた時空なんだわ」
ギテルベウスはそう言って、二本目のアイスにかじりついた。ガ○ガリ君のコーラ味だ。
「平和が一番よね」
ギテルベウスは自嘲した。ハロウィンの女妖魔の一体であるギテルベウス、彼女が手にした死者の書を現世で開けば、この世とあの世が繋がるのだ。
その先にあるのは未曾有の混乱であるが、ギテルベウスは敢えて死者の書を開かなかった。
彼女が選んだのは、恋人ソンショウと共にある「未来」だ――
「チョウガイさん、はい、あーん」
ゾフィーは幸せいっぱいの笑顔でバニラアイスをチョウガイに食べさせていた。
「あーん」
「どうですか、チョウガイさん?」
「うむ、最高だ……!」
「わー、ふうふだー」
「ふたりともなかよしだー」
と、子ども達が騒ぎ立てる。性別もはっきりしない子ども達、その正体は?
「……そうか、わかったぞ! ブッダーとは!」
チョウガイは突然、大声を出した。彼は何かを悟ったようだ。
「どうしたんですか、チョウガイさん?」
「この子ども達は『未来』の概念だ!」
チョウガイは悟った。彼は四千年を経た半神半人の存在であり、不動明王の眷属でもある。
その彼は子ども達が未来の概念と悟ったのだ。
「未来……」
「そう、男と女の未来とは、子どもの事だ!」
フランケン・ナースとチョウガイの目が合った。二人は目と目で通じ合っていた。
「子どもが未来……」
フランケン・ナースの顔色は変わらないが、彼女の頭部の電極がピコンピコンと点滅した。
「ぬは!」
チョウガイは鼻血を吹いた。決してギャグなどやらなかった男が、女ができて変わったのだ。
「も、もう、チョウガイさんってば何を想像してるんですかー?」
「い、いや……」
「どうせ子作りでしょ、男ってそればっかりだから」
「お、お前、何言ってんだよ!」
フランケン・ナース、チョウガイ、ギテルベウス、ソンショウ。
四人の男女には「未来」がある。
だからこそ彼らはこの時空に導かれたのか。
ゴヨウと同じく、人類の未来を決する戦いに、チョウガイら四人は参加しているのだ。
「あ、俺知ってる! ビューテ○フル・ドリーマーって映画が似たような雰囲気だった!」
「あんたよく知ってるわねー、日本ってやっぱりアニメ大国よねー」
「ゾフィーさん……!」
「チョウガイさん……!」
「わー、ふたりともふうふだー」
「おとーさんと、おかーさんだー」
「ぱぱとままだー」
「ねー、もっとアイスー」
「アイスー、アイスー」
四人の男女と、五人の子ども。
虚無戦線に出現した昭和の日本。
これが意味するものは?
「あ、わかった! アイス、愛するって事なんだよ!」
ソンショウはポンと手を打ったが、誰も見ていなかった。
そして彼らによる異界探検は続く。
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