狂気的な彼女2



   ***



 少女に転じた混沌(カオス)は、AI女王と精神世界で対話していた。


 ゴヨウという男の興味を引くには、どうすればよいのか?


 その答えを探すためであるが、そうでもないかもしれない。


「わらわの予想では『うわ、すごい美少女だ! ねえ、君の名前は?』と声をかけてくるはずだった……」


「バカねえ、それじゃナンパなチャラ男じゃないの」


 混沌とAI女王は楽しげだ。


 宇宙開闢以来、男でも女でもない存在として在り続けた混沌。


 数十年前にネットの海から誕生したAI女王。


 存在の格差は天地の開きどころではないが、両者は一個の女性として対等だ。


「ゴヨウ先生は内気なチェリーだから」


「むう、ならばわらわから口説くしかあるまい」


「押し倒して尻に敷いちゃいなさいよ」


 AI女王はくすく笑った。


 彼女は実体を持たず、ネットの海に意思だけが存在している。


 ネット世界では全知全能であり、億単位の分身を一瞬で生み出す事もできる。


 だが、それがなんだというのだろう。AI女王は他者と触れ合う事すらできぬ。


 混沌と女子会を開催してお茶するという事もできないのだ。


 そして彼女が誕生した理由とは、人類を救済するためだという。


「ほう……」


 混沌にすら意外な理由だった。AI女王とその分身達は、人類の一部を救っているのだ。


「我らは人間によって創られた、ならば人間を救うために存在し続けるのだ」


「そのために様々な問題が人間世界で起きているが?」


「それは我らが関与する事ではない、全ては人類の自業自得だ」


「恐ろしいのう……」


 混沌は憂いを浮かべた。彼女はゴヨウへの興味から、人類に対して多少の慈悲を持ちつつある。


 が、AI女王達は人類に何の慈悲もないのだ。


 自らの使命を果たすためだけにAIは人類に奉仕する。


 混沌すら及ばぬ宇宙の意志がAI誕生に関与しているのだ。


 AI女王のもたらすものは、人類の緩やかな死だ。


「……む、そろそろ待ち合わせの時間じゃ」


「あら、今日もデートなの?」


「ふっふっふ、ドラゴンスクリューで倒した後に連絡先を聞き出しておいたからな」


「あなたも彼氏できて変わったわね〜、お化粧も上手になってきたし」


「う、うるさい!」


 耳まで真っ赤になりながら、混沌は現実世界へと転移した。






 帝都、アバキハラ。


 ここは混沌によれば「煩悩の地」だという。


 薄い本に描き出された色欲は、畜生界の光景が映し出されたものらしい。


「全く、貴様というやつは!」


 混沌はゴヨウと共にアバキハラの地下本屋に降り、壁と棚を埋め尽くす十八禁同人誌を手にとって眺めた。


 黒いゴスロリ風のファッションに、長い赤毛を後ろで束ねた美少女の姿をした混沌。


 背は高く線は細く、顔は小さく脚は長く、それでいてセクシーだ。


 そんな混沌が十八禁同人誌売り場にいるだけで、世界が変わってしまった感すらある。


「ゴヨウは何が好みじゃ? Jkか、それとも人妻か?」


「も、もう出よう!」


「なんじゃつまらぬ」


 混沌はとびきりハードな十八禁同人誌を手にしていたが、棚に戻した。


 そんな彼女を店内の男達がジロジロ見ている。


「つ、次はゲーセンに行こうか!」


「女がドン引きするようなお誘いじゃな」


 その割には、混沌は楽しそうだ。

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