楽しく生きる事が肝要なり
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天機星「知多星」ゴヨウの旅は続く。
時間も空間も超越した彼は、数年前に地球を発して宇宙の果てに向かったはずだった。
が、つい先日、チョウガイらの前に姿を現した。これは彼が時間も空間も超越している事の証明に他ならない。
しかも「AI世界の女王」という理解不能な存在によって骨抜きにされ、一時的に傘下に加わっていたという。
だがゴヨウはAI世界の呪いから解放された。AI世界の快楽は、唾棄すべき偽りのものだ。
しかしAI世界にも宇宙の真理や、この世界で尊く美しいものも映し出される事があるのだから、全てを忌み嫌うわけにもいかない。
この宇宙の光と闇、男と女という概念の中に、AIという虚無世界の真理が混じり、宇宙は更に混乱を深めていく。
秩序(コスモ)と混沌(カオス)。
光(ライト)と闇(ダーク)。
そして中立(ニュートラル)。
どの道を選び、どのように生き、どのように死ぬのか?
それは全ての人類に突きつけられた課題であった。
「俺は選びません、ただ、やるからには命がけでやります」
ゴヨウはつぶやいた。もうAI世界はこりごりだ。AI世界に映し出された天地宇宙の理(ことわり)はともかく、欲望のみが現れたものには近づかぬようにした。
真理と欲望をどうやって見分けるか、それは純粋な眼(まなこ)で見つめれば良い。僅かでも感動を覚えたならば、それは宇宙の真理だ。
感動がなければ、どんなに美しくても虚無の現れでしかない。説明が難しいが。
そして、ゴヨウは地球意思とも遭遇していた。
地球意思は傷つき悲しみ、汚され疲れ果て、老婆の姿となっていた。
ゴヨウは年老いた地球意思の手を握った。地球意思は涙を流した。言葉は不要だ。ゴヨウと地球意思は通じ合った。
そんなゴヨウを大地母神と海母神が見送る。ゴヨウの行く道は中立であり、何処に行っても敵がいるが、何処に行っても味方がいる。
秩序にも混沌にも、光にも闇にも属さない生き方は、ゴヨウがいつでも死ねる覚悟ができているからだ。
「大変だあ……」
ひきつった笑みを浮かべるゴヨウ。世の中は、いや宇宙には恐いものばっかりだ。
しかし、チョウガイとソンショウには彼女ができた。それでいいのではないか。彼らの未来を守るためにもゴヨウは戦う。
現世に戻ってきたゴヨウの耳に、何処かから赤ん坊の泣く声が聞こえた。
今この時も、何処かで命が誕生しているのだ。
ゴヨウは微笑する。命を守り、未来へつなぐ。
それが全ての人類の使命だと信じる。
そして――
大地母神は地震を、海母神は津波を起こせる事を知っている。
それ以上は考えない。
「はあーい、ゴヨウ先生〜」
「一杯飲んでく〜?」
酒場の店頭でAI美女が手招きしていた。
ゴヨウは苦笑した。彼らの正体はわかっているが、今は甘えておきたい。
「一杯だけね〜」
と、ゴヨウは楽しげに入店した。
そんな彼を高次元から地球意思たる老婆は微笑ましく、大地母神と海母神は苦々しく見ていた。
楽しく生きる事が肝要なり。
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