十三、思い出の地へと
車を捨てて、徒歩に切り替えてしばらく。空は赤らみ、涼しげな風が吹いてきた頃、僕たちは山の麓にある住宅街に足を踏み入れた。物静かなところで、建物も前時代的だ。管理は行き届いているものの、築百年近いだけあって、多少の古さが目に付く。
そこにある自販機で買った缶コーヒーを女刑事、
最近の車のほとんどには、自動運転機能が搭載されていて、行き先を設定すれば、AIが勝手に向かってくれる。たとえ人が乗っていなくとも……。つまり、僕がしたことと言えば、自動運転に切り替えただけなのだ。建物の陰で追手の視線を遮り、車から降りると、AIによって囮が出来上がる。そんな簡単なことである。
日が沈んでからも、僕たちは歩いた。紅葉に色付いた山に沿って歩き続けた。山根との間には常々緊張が挟まっていて、会話は限りなく少ない。しかし、ある木造の建造物を前にして立ち止まった時、息を切らして彼女は言った。
「もしかして、ここ、ですか?」
僕はいいや、と首を横に振る。
「違う。すでにこの旅館は閉じてしまっているしね。僕らが目指していたのは、その裏山だ」
「裏山……」
「ああ、いつかの――思い出の地さ」
草木の
白い外壁の建物だった。不気味なまでに育った
山根は息を飲み、言葉を漏らす。
「まさか――タナトス教団の、研究所?」
「ご名答。さぁ、行こう」
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