十二、逃走中

 窓の外を街景色が流れていく。植物の垂れた建造物がよく目立つ、ホログラムが宙に浮くような都市だ。かと言って、浮遊する車なんてものはないが。


「ど、どこに行くつもりなんですか……」


 パトカーにて、ハンドルを握り、街中を走らせている女性刑事は震え声のまま問う。

 後部座席にいる僕は携帯電話のデータを消し、そして、彼女の身に着けていた通信機器を窓から投げ捨てて答えた。


「この道を辿って行きたまえ。ああ、高速道路には入るなよ? あれは一本道ばかりで逃げ場がない」

「……はい」


 女性刑事は消え去りそうな声と共に頷いた。

 

 僕がしたことと言えば簡単である。


 まずは一人を殺して見せて、全体に死への恐怖を思い出させた。次に逃走の足となる車、運転手を確保する。見せしめのおかげで、拳銃を突き付ければ勝手に従ってくれるため、ただ走らせるよう言った。それだけだ。

 もちろん、追跡はどうしても避けられない。だが、旧時代の警察とはわけが違う。人は不死になると、途端飽きっぽくなるので、仕事における入れ替わりは激しい。警察になるのも、当時と比べれば随分と容易くなった。故に、かつての経験を持つ者は少なく、ほとんどが素人同然。すぐに追い付かれることはないだろう。


 しかし、何事にも限度というものがある。パトカーに蓄えられた電気が切れるのは、およそ十時間後。運転手にも精神的限界は訪れるだろうし、やけを起こされては事だ。だから、警察の目をあざむく必要があるのだ。

 

 幸いにも、策はある。もっとも、策と言えるほど高尚な方法ではないのだが。


「途中、車を乗り捨てる。それからは徒歩だ。三、四時間は覚悟しておけ」

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