九、思い通りにはいかないものだ。
結論から言おう――僕たちは失敗した。
開会式の打ち上げ花火に仕込まれたはずのザ・グリムリーパーが、何の効力も発揮しなかったのだ。色鮮やかな火花が散る中、誰一人として死ぬことなく、平和に進む披露会。その際中、緊急報告として全体に告げられたのは、『不審な挙動を見せたアメリカ人女性の確保』した旨であった。それとともにポケットの携帯が三度揺れた。万一主導者のどちらかに異常があった場合に、と共有していた合図だ。教団員はそこかしこにいるため、もし異常を目撃したならば報告しろとの指示だった。結果、放送が流れると同時に合図があった。
つまり――タナトス教団の教主、エリザは捕まったということだ。
僕たちは失敗した。
計画通りに事が運ばないどころか、首謀者まで特定されてしまったのだ。故に、逃げるしか選択肢はなく、今、高層ビルを駆け上っている。確保せんと飛び出してきた警察の追手を小さな体で掻い潜り、屋上にひた走る。そうしながらも、何故死者を出せなかったのかと頭を回していた。
あの瞬間、僕は建物の中にいて、同僚と並んで缶コーヒーを飲んでいた。そして、確かに花火が咲いたのを目にした。火を点けたとて、燃え尽きないのは実験で分かっている。にもかかわらず、薬の効果が発揮されなかったのだから、原因は限られている。最もあり得る可能性と言えば、そもそもザ・グリムリーパーが火薬と混じっていなかったというもの。だとすれば、答えはこれで間違いない。
――裏切者、あるいはスパイがいたのである。
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