八、死の研究者と死の教主
また、朝が来た。薄い毛布を投げ捨てて、いつものようにシャワーを浴びる。寝ぼけ眼のまま、新鮮な
地下室に降りると、引き出しの奥に隠していた物を手に取る――リボルバーだ。銃身が短く、手ほどの大きさであり、銀色に輝いている。僕は机の上に転がっていた9mmの青い銃弾を六発、それに込めた。一発一発、丁寧に。そして、懐に入れる。
リボルバーは単なる護身用である。捕まるのも、死ぬのも計画が破綻しかねない事態だからだ。特に最近、雲行きが怪しい。よって、自衛のためにリボルバーを用意した次第だった。もちろん、ただの弾丸ではなく、不死殺しの薬を仕込んだ正真正銘殺すための道具。足だろうが、腕だろうが、どこに当たっても塵と化す。僕のとっておき。
今日は素敵な日だ。製造の第二段階に入った宇宙船を披露する日。各国からも主要製造国の一つたる日本に訪れる。大勢の人々が集まる瞬間に、恵まれるのだ。ザ・グリムリーパーの量は限られている。だからこそのチャンス。逃すわけにはいかない。
懐で携帯が震える。僕は応答した。
「こちら東京都第一研究所の泉。どちら様で?」
すると、少々上擦った女性の声が聞こえる。
「先生、私です。エリザです。本日はお日柄もよく、絶好の実行日和ですね」
「ああ、どうも。準備はいかがですか?」
「順調ですよ。きっとみんな驚くことでしょう」
「最後まで気は抜かないように。どこに目や耳があるか、分かったもんじゃない」
「うふふ! 昔映画で見たんですけど、こうやって連絡するのは避けた方がいいらしいですよ。盗聴される危険があるんですって!」
「まさか。今時、そんな警戒をしている人間なんていないでしょう」
僕は肩を竦めた。警戒心がもはや皆無となっている現代人。彼らはわざわざ盗聴する危機感を持ち合わせていないに違いない。だったら、と計画について口にする。
「聞いている者がいれば、花火は中止になっているはず」
「ふふ、そうですね。大丈夫、予定に変更はないですよ。ちゃんと開会式に打ち上げる方針みたいです」
「ならば、何の問題もない。そうですね?」
「ええ、もちろん! 彼らを救って差し上げましょう、必ず!」
そう言って、タナトス教団の教主は電話越しにうっそりと微笑んだ。
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