七、滅びを誘う者

 材料は彗星の砂、純水、水銀、河豚ふぐ毒として有名なテトロドトキシン。それらをよく混ぜて、一週間、弱火で煮詰める。続けて、出来上がった液体の一割分、浮世離れした者の血を入れ、暗室で寝かせる。具体的には三日か、五日。そうして、しばらくすると、変化が訪れる。――ねずみのような鈍色にびいろが、固形となって沈殿するのだ。して集めると、純水だけが残される。僕が集めるのは、固形の部分だけだ。

 材料集めにはさほど苦労しなかった。反アタナトス派のタナトス教団に協力を取りつけられたからだ。タナトス教団とは、死を崇拝する者たちが集まる宗教団体。数百万もの信者数であって、五十人近い不老不死でない者もいるらしく、浮世離れした者の血が容易く手に入るのだ。なお、教主もまた、不老不死ではないそう。

 


 そんな者たちが協力してくれる薬の効能とは、すなわち――〝不死殺し〟である。

 


 効果はモルモットで確認済みだ。薬を水に溶かし、注射すると、間を置かずに死ななくなったはずの肉体が塵と化す。薬の名前は、〝ザ・グリムリーパー〟……意味は死神。数十年もの間、試行錯誤しこうさくごを繰り返して、ようやく完成した僕の傑作けっさく。人類の希望だ。

 僕はこれを使って、あの奇跡を再現する。――アタナトス彗星の到来を。

 

 ああ、死よ。永遠を妨げる、唯一の光よ。我々人類に、救済を!


 しかし、近頃、どうやら僕の周辺を探る者がいるようなのだ。背後からやけに気配がする。ひしひしと視線を感じる。僕について、問う者がいると聞いた。嫌な予感がするのは、気のせいではないだろう。恐らく、不審な動きに気がついたのだと思われる。これでも信用は得ているつもりだから、その人が知人、上司に告げたとて、耳を傾けるとは考えられない。

 だが、邪魔立てするならば、現実を教えてやる必要がある。


 僕の理想は、成し遂げられなければならないのだと。

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