二章プロローグNo.5 「???」
一つ、質問をしてほしい。
なに、僕についての質問だ。
僕が何者なのか、聞いてほしいと言っているんだ。
……ああ、そうさ。ただの自己顕示欲だ。
まあ、聞かれなくても答えるけれどもね。
僕の名前は黒茨天恵。
至って平凡な人生を送ってきた、至って平凡な男だ。
いやまあ、僕は自分のことを平凡だとか思ってないし、思われたくもないけどね。
でも周りの馬鹿どもがそう言うんだからそうなんだろう?
僕は空気が読めないわけでもないし、人の気持ちが分からないわけでもない。だから客観的に見た自分のことを『平凡』だと言ってやった。それだけのことだ。
痛い奴だとか言わないでほしい。こっちは気を遣ってやったんだ。褒められこそすれ貶される筋合いはない。
そうだな……主観的な意見を言うのなら、僕は生まれた時から周りとは違っていた。
初めにそのことに気付いたのは、保育園の先生が倒れた時だ。
園長先生だったかで、主任保育士が真っ先に悲鳴を上げていた覚えがある。
他の子ども達は困惑したり状況を飲み込めずにいたり、聡い子なんかは理解して不安がっていたと思う。
ただ、爆笑しているのは僕だけだったらしい。
まあ確かに、倒れ方は別に面白味も何も無かったし、泣き出している子どもの数が圧倒的に多かった中で、変と言えば変かもしれない。
でもよく考えてほしい。
面白いだろ? 人が目の前で倒れたらさ。
うん。大丈夫。頷いてくれる人が何人かいるのは知ってる。そこまでは割とよくいるって僕の調べでは分かってるんだ。
ただ、先生がそのまま救急車に運ばれて、保育士のお姉さんたちがもう大丈夫って言ってくれた時、僕は悲しくなったんだ。
他の子ども達が時間を置いて泣き止んでいく中、僕だけはむしろ涙を流し始めていたらしい。
そして怒ったらしい。そりゃもうブチギレてたって話だ。
何でか分かるかな?
……こう言うと、割とみんな頑張って正解に近いことを言ってくれる。
僕は何だ? サイコパス診断機か?
でも生憎だが僕はサイコパスじゃない。何故なら共感能力があるからね。
みんなと違うって分かれば、みんなのことを理解して誤魔化すことだって出来る。
僕はおかしいが、本当におかしい奴は会話もまともにできないような状態の人のことさ。
……うん? 正解は何かって?
は? ガキの頃の話なんて覚えてるわけないだろ。いい加減にしろ。
……そうそう、そう言うとみんな良い顔してくれる。
僕はそんな顔が好きだ。人間が人間を憎らしく思っているような表情が大好きだ。
だから……アイツの、イッキの表情が嫌いだ。
初めて会った時から、死ぬまでずっと、アイツは僕に天使のように穏やかな表情を向けてくれた。
それが気持ち悪くて鬱陶しくて腹立たしかったんだ。
だからたくさん嫌がらせした。
リノカと一緒に公園の砂浜でお城を作っていた時も、蹴っ飛ばしてやったりした。
リノカは怒ってたけど、イッキは僕に笑ってさ。『アハハ! お城がテロで壊されちゃった! 新しい城作らなきゃ!』……とか言ってた。
小学校は同じだったから、ジャングルジムから突き落としたりもしたなぁ。
でもアイツ、骨折したのに僕の所為だって言わないでさ。『クロにぃ見舞いに来てくれたの!? ありがとう!』とか言ってた。普通に何で落ちたのか忘れてたんだよ、あの馬鹿。
中学と高校は年齢的に一緒じゃなかったけど、家が隣だから毎日アイツの部屋にゴミとか勝手に置いたり、犯罪レベルの嫌がらせもたっくさんしたんだけどなぁ。
いくら僕がやったって言っても、『そっかぁ。俺以外にすんなよ? クロにぃ』……って、説教でもないレベルのアドバイスしてきやがった。
……とにかく、アイツはおかしいんだ。気持ち悪いんだよ。
まあ、どうせこれを言っても、おかしいのはお前の方だって言われることは分かってるけど……。
だがこの際どうでもいい。
僕の前に『彼』が現れ、チャンスが舞い降りたんだ。
選ばれた人間はお前だけじゃないってこと、この手で教えてやるよ。イッキ!
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