9話 「集会」

神嗣学園 一〇一号室


 神嗣学園では生徒主導の活動も多く存在している。クラス委員集会もその一つだ。

 生徒たちが自ら定例会を開いて情報交換を行い、学園生活を更に豊かにするという特筆すべきことのない一般的な会。

 その会の開かれるこの一〇一号室は、講堂や体育館ほどの広さではないが、馬蹄型の形状で段差があり、教壇から見上げる形で話すことのできる部屋だ。

 そこにイッキは本来一人で来るつもりだったが、過保護なルイは彼にわざわざ付いて来た。


「別に俺一人で良いのに」

「心配」

「ルイは俺のこと息子だと思ってんの?」

「む……」


 何故かルイは答えに迷いだした。しかしイッキはこれで会話が終わったと見て教室の教壇へと目を向ける。


「初めましてこんにちは。自分はアメリカクラスのガガク・ダダンです。これより一年生の第一回クラス委員集会を執り行いたいと思います」


 教壇の上で口を開いたのは、眼鏡をした男の候補生天使。

 四角い光輪に角ばった光翼を持っていて、見るからにお堅い人物だ。


「真面目そうな人だなぁ」

「む」


 イッキの声に気付いたのか、ガガクはギョロリと二人の方に視線を向けてきた。


「うおっ!?」


 一瞥だけして小さく溜息を吐くと進行に戻る。


「……えー、ここで行うのは学園生活における単純な注意事項の確認と、情報伝達です。注意事項に関しては出来ることならお配りした資料を確認して頂くだけで済ませたいことだったのですが……」

「?」


 ガガクは再びイッキたちの方に視線を戻す。


「常識として、当然ですが学園内では基本的に制服以外の格好は禁止です。これに関しては把握していらっしゃらない新入生がいたという話でしたので……是非とも注意してほしいです。よろしいですか?」

「へぇ。困った奴がいるなぁ、ルイ」

「……」


 イッキは自分のことを言われていると全く気付いていない。

 入学式の彼の姿は、ガガクを始め皆の記憶に確かに刻み込まれていた。


「……次に、これも当然というか必然……当たり前のことなのですが、学園内での私闘は禁止です。これも初日から破った新入生がいたという話でして……水やら炎やらと、神から与えられた力が使われているところを目撃したそうです。皆さん注意してください」


 ガガクは明らかに苛立って眉をピクピクさせながら、やはり二人に視線を向ける。


「誰だろうね? イッキ」

「いやお前だろ」


「君達のことだ!」


 ガガクは早くも堪忍袋の緒が切れてしまった。


「第一それでも最高神の候補生か!? 日本クラスのイッキ! 秩序が……秩序の、いや、秩序を乱すようなことばかりして! 秩序を守る側の神の神託を得ているはずだろう!? 秩序を何だと思ってる!? この秩序が!」

「おいおい大丈夫か? アンタ。あんまり怒るとアレだぜ? 血圧上がるぜ」


 火にガソリンを注ぐ。


「というか何故日本クラスにばかり問題児が集まっているんだ! えぇ!? 一番最少人数の癖に! どういうわけだ!? 厄介払いか!?」

「へぇ。問題児なんていなかったけどな。俺が見た限り」

「鏡を見ろ!」

「? 鏡見ても私しか映らないはずだけど……」

「この……!」


 イッキもルイもガガクが何故怒っているのかよく理解していなかった。

 結果、ガガクの説教は小一時間続くことになり、イッキたちの悪印象は他のクラス委員の一年生を通じて学年全体に広がることになるのだった。


     *


「ハァ……ハァ……す、すみません。では、最後にお知らせを……」


 ようやく落ち着いたガガクは、本来優先するべきだった情報伝達を疲弊しながら始めた。

 イッキとルイは流石に反省したのか、分かりやすく『反省中』と書いた紙を掲げている。


「……えー、実は、昨日二年生が一人と三年生が一人、学園内で行方不明になったそうです」


 ガガクのローテンションとは対照的に、今初めて教室内がざわついた。

 このニュースは新入生の彼らにとってあまりにもショッキングな内容だ。


「えー、最後に目撃された場所が学園内だったということで、原因は不明ですが現在学園側が全力を上げて捜索中とのことです。えー、配布した資料に行方不明の学生の情報を載せておりますので、見かけ次第学園側にご報告をお願いいたします。はい。では今回のクラス委員集会は以上ということで……」


 ガガクは疲労困憊となって既に帰宅したくなっていた。

 一方で一年生の各クラス委員は少しばかりてんやわんや状態だ。


「行方不明かぁ……」


 会が終わったと見て、イッキとルイは『反省中』の紙を下ろす。


「帰ろう、イッキ」

「心配だな。行方不明の先輩たち」

「……イッキ」

「悪い、今日帰り遅くなる」

「……」


 ルイは分かりやすく大きな身振り手振りを入れて溜息を吐く。


「ルイ?」

「探すなら一緒」

「ん?」

「私も一緒」

「あ……ああ! よぅし! じゃあ一緒に探すか! 先輩たち! 何とかなるって奴だ!」


 ルイは真っ直ぐな目をしたイッキの顔を見て、無意識に微笑みながらコクリと頷いた。

 帰りは二人とも遅くなる。

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