6話 「最初の授業」
暗い路地裏
天界においても真夜中の町は閑散としている。
整備されつくした道路は、自動清掃機能で常に真っ白なタイルのまま空からの光を反射している。
天界でも、空から差し込む光は日中夜中問わず存在するのだ。もちろん夜中の光は日の光を反射させたものに過ぎず、真っ白なタイルはそれを更に反射させているだけ。
「こんばんは」
路地裏の暗闇に対して挨拶をする人物が一人。
顔の無いシルクハットの男のような存在──時の神アイオンだ。
「……」
「ああ、心配しなくていい。ボクはただユーの様子を見に来ただけなんだ。なにも邪魔するわけじゃあないんだよ」
その人物はアイオンに対して睨み付けるだけで、言葉を発しはしない。
「ん? ああ、言い忘れてたね。ボクは時の神アイオン。そう、君ら候補生の天使が目指す存在だ。もっとリスペクトしなよ!」
「……」
「フッ。無視かい? まあいいさ。とにかくまあ頑張るといい。折角神嗣学園の新入生になれたんだ。精々イッキ君たちを上手い事騙して取り入ることだね」
「……!」
「んん? ボクが君の企みを知っていることがそんなに驚きかなぁ? ボクは時の神アイオンだよ? 意味……分かるだろう?」
「……ッ」
軽い舌打ちをして、その人物は路地裏の更に暗い方へと消えていった。
アイオンは表情こそ無いがシルクハットを抑え、クックックと笑いながら彼もどこかへ消えていくのだった。
*
神嗣学園 三〇三号室
人間をやめ、神候補生の天使となった燃城一輝は、名前をイッキと変えて天使の学校に通い始める。
神嗣学園は神候補生のための学校であり、将来神となって人間に崇め奉られる存在となれるよう、生徒たちに人間社会についての知識を学ばせる。
クラスは人間の世界の国ごとに分かれていて、ルイの進言でイッキは日本クラスに入ることを決めた。
志望クラスごとに現在のその国についてを問う入学試験があるのだが、日本出身のイッキは難なくそんな試験を突破し、そして今、日本クラスの授業教室の一席に腰を下ろしていた。
「こんにちはぁ、日本クラス一年生の皆さん。私が担任のアリエアでぇす。よろしくねぇ」
無気力な声の女性。ゆるふわなカールを作ったピンク色の髪型で、シュシュのような光輪と花びらのような光翼を持っている。
アリエアは教室全体を見渡してそのフワフワした笑顔を振り撒く。
「全世界の人間を導く天使としてぇ、このクラスでは主に日本社会について勉強していきたいと思いまぁす。仲良く頑張っていきましょうねぇ」
クラスの人数は僅か十人。クラスは学園内に三十以上あり、それが三学年分あるので、ひとクラスの人数はそこまで多くない。
「はいっ!」
人数が少ない為か、アリエアに対して返事をするのはイッキだけだった。
*
最初の授業が終わり、イッキは隣の席のルイに声を掛ける。
「うーん……なんか思ってたより簡単だったな」
「そう?」
「だって日本の歴史とか社会の勉強ばっかだし。俺日本出身だし、何というか知ってる内容ずっと聞かされるだけでさぁ」
そう言うと、ルイではなく別の者が反応した。
「……フン! エリート様は流石だなぁ!?」
非常に嫌味たらしく声を荒らげるのはレオ。彼も同じクラスだったのだ。
「え、エリート?」
「そうだろうがよ、最高神の候補生」
「最高神ってそんなに偉いのかな?」
「偉くねぇわけねぇだろ! 馬鹿か!?」
「あ、そうだ。学園探検しようぜルイ」
「無視か!?」
「おいおい誰だ? レオのこと無視した奴」
「てめぇだ!」
取り巻き二名に宥められるレオの横を通り過ぎ、イッキとルイは教室を出ていった。
まだまともに他のクラスメイトと自己紹介もしていないのだが、それよりもイッキは見たことのない学園の施設を早く見に行きたかったのだ。
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