5話 「43241」 ③
倒れた一輝は、どういうわけか目を開けることが出来た。
まだ生きていたからなのは間違いないが、その理由が分からない。
目を開いて見た先では──
「……お前……」
先程の青髪の少女の腹を、アイオンの手刀が貫通していた。
貫通した箇所からは血が溢れ出していて、確実に無事ではないことは明らかだ。
「……ふむ。どうして木っ端天使の君が人間の少年を庇ったのかな?」
アイオンは手刀を彼女の腹から抜きながら尋ねた。
「……分からない。うっ……!」
その場で少女は倒れ込んでしまった。
「おい!」
急いで一輝が近付くが、もう少女は息も絶え絶えの状態だ。
「……意味の無いことだね。こうして庇ったところで僕はこの少年をまだ殺せるわけだし。君のそれは善意ですらない。正義でもない。ただの……自己満足という奴だ。しかしそんなことのために死ぬとは……イカレてるね」
「……てめぇ」
一輝にはこの少女が何者なのか分からない。
そもそもなぜ自分が殺されそうになったのかも分からない。
ただ、そんな状態の彼にも許すべきではない存在くらいは分かることが出来た。
「まあいいさ。天使が何人死のうが問題は無い。所詮は傀儡。本当に世界を救えるのは……いつだって人間だけなんだ」
「てめぇ!」
一輝は力いっぱいに拳を握り締めて殴りかかった。
だが、次の瞬間にはその場に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
「でも神に歯向かう天使がいるなんて聞いたことないな……これは何かに使えるかも?」
一撃で一輝を立ち上がれなくして、アイオンは全く別のことを考え始める。
一輝はもう睨み付けることしかできずにいた。
「それともユーに何かあるのかな? ねぇ少年。もう一度聞くが……ボクの神の座を受け継ぐ気はないか?」
「うる……せぇ! 何でだ!? 何でこの子を殺したんだ!? 理由を言え!」
「会話が通じない……。というか理由がそんなに重要かい? まさかユーは……その理由によってはこのボクを許すと? ……フフ。なーんて──」
そこまで言って彼の目を見たアイオンは、驚愕の余り言葉を失った。
彼の目は……『ああそうだ』と言わんばかりに純粋な目をしていた。
「……まさか本気でそう思っていたのか? イカレてる……君もイカレてるよ。この子は君を守ってこうなったのに……『報いる』って言葉を知らないのかな?」
「……ッ」
まだ強く睨む一輝だが、そこには目の前で理不尽な殺しを働いた人物への怒りではなく、確かに返答を貰えなかったことへの切なさがあった。
神と呼ばれる立場にあるはずのアイオンは、そんな一輝から不気味な何かを感じ取る。
「……まあいい。取り敢えずここは君に死んでもらうとしよう。深く考えるのはその後ってことで。いやぁ残念だよ。もう少しゆっくりと話を聞いてもらうべきだったかもしれないね。でも気にしないよ。神託を与えるのは他の人間にして……また一からやり直しだ」
「……どうして……どうして殺したんだよ……」
「……そんなに僕を許したいのか。初対面なのに気味が悪いな、まったく」
アイオンは、手刀を伸ばして振り被った。
そしてその後は──
*
現在 神嗣学園 第一キャンパス メインホール
「……………………ハッ!?」
イッキは最初の講義説明会の途中で眠りこけてしまっていた。
当然だが隣にはルイが座っている。
「どうかした?」
「……いや、なんか変な夢を見てた。そうだな……マジで変な夢……」
「? どういうこと?」
「……なぁルイ」
イッキは珍しく真面目な顔でルイの方を向いた。
今は講義説明会の途中だが、その様子から、ルイは聞き流すべき内容ではないと受け取った。
「……俺とお前が出会ったのって……俺にアイオンが接触した後……だったよな?」
「うん」
「俺がお前に助けられたんだっけ?」
ルイは静かに首を横に振った。
「違う。貴方が私を助けてくれた。だから最高神様もイッキに神託を与えた。忘れたの?」
それを聞いて、イッキは今まで自分が見ていた夢への違和感を強めた。
彼は今の今まで、『全く記憶に無い過去の出来事』を夢に見ていたのだ。
「……そうだよな。そうだったはずだ。……変な夢見た」
「?」
ルイは少し気になったが、説明会は続いている。丁度自分達にも関係する内容の説明が始まったので、それ以上話を聞くことは出来なかった。
そしてイッキは一人、今まで見ていた夢を疑問に思い続けるのだった。
「……夢……だよな?」
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