第25話
そこから先は特に問題は起きることなく順調に———
「おい! 星野、勝手なことをするな!」
「文句を言う暇があるなら魔物を倒せよ」
「くっ……!」
———多少の問題はあったが、遂に探索部隊は目標階層である四十階層に繋がる通路に到着する。
「皆、準備はいいね?」
「勿論だぜ!」
「いつでも行けるわ!」
「わ、私も大丈夫だよ!」
天川の問いかけに黒田達は力強く答える。
「よしっ! なら、今度は勝つよ!」
『応ッ!』
そして、気合を入れた天川達を先頭に攻略部隊は通路を駆け抜ける。
「これは……」
「圧巻だな……」
最後尾にいた蓮と蒼衣は通路を潜り抜けた先に広がっていた光景、部屋の中央に鎮座する生物の王が一体、紅竜を前に感嘆の声を漏らす。
「皆、戦闘態勢を!」
「グルゥ……」
武器を構える天川達を見つめながら静かに唸る紅竜。
「……」
「……」
一瞬の静寂。
そして、次の瞬間———
「かかれぇええええ!!!!」
『オォオオオオ!!!!』
数多の雄叫びを合図に、紅竜の戦闘が始まった。
――――――――――――
「黒田は接近して紅竜を引きつけて!」
「任せろ!」
「白川は死角から攻撃を! 綾瀬はいつでも回復魔法を使えるよう準備をしておいて!」
「分かったわ!」
「う、うん!」
支援部隊が通路の入口付近で待機する中、天川達は上手く連携しながら紅竜と戦いを繰り広げる。
「やっぱり実力はあるんだよな~」
「それな~」
それを眺めながら、蓮と蒼衣が感想を言い合っていると、
「あの……どうして、我々はここで待機なのでしょうか?」
サラバルドが戸惑いを隠しきれない表情で、二人に問いかけてきた。
「いや、天川が『支援部隊は大人しくしていろ』って言ってきたからな」
「本当は支援ぐらいしたいんだが、それをしたら絶対怒るからな~」
『え~……』
苦笑しながら告げた二人の言葉に、サラバルド含め騎士団の面々が呆れた声を漏らす。
「本当に嫌われているんですね……」
「まぁ、このまま行けば勝てそうだし、そこまで気にすることでもないがな」
そう言いながら、蒼衣達は天川達の戦闘に視線を戻す。
「 【その光をもって、敵を打ち倒せ】———【
「ウォオオオオ!!!!」
天川の真銘魔法によって身体を切り裂かれた紅竜の絶叫が部屋中に響き渡る。
「あの真銘魔法、シンプルだけど強いよな~」
「竜の鱗は相当硬いからな、傷をつけることが出来るだけでも凄いな」
このまま行けば、間違いなく勝てると二人は思っていたが……
「グルォオオオオ!!!!」
咆哮と共に紅竜の全身が紅く光り出した次の瞬間———
『うあぁあああ……!』
これまでよりも数段上の速さで振るわれた尻尾が天川達を吹き飛ばした。
「綾瀬、急いで回復魔法を!」
「えっ、あっ、う、うん!」
「お前らも天川達に回復させろ!」
『了解!』
蓮は綾瀬に、蒼衣は騎士団の回復部隊に指示を出しながら紅竜に接近する。
「なぁ、あの紅竜ってそうだよな?」
「あぁ、あの紅竜は間違いなく『特殊個体』だな」
『ッ!?』
二人の言葉に騎士団の面々が目を見開く。
「ゴートは天川達であれば五十階層までは行けると言っていた」
「しかし、実際は四十階層の紅竜に敗れた」
「一瞬、ゴートが天川達の実力を測り間違えたのかと思っていたが……」
「あのゴートが他人の実力を測り間違えるはずがないんだよな」
蓮は『身体強化』『刀身強化』『視覚強化』を、蒼衣は『力向上』『防御向上』『敏捷向上』をそれぞれ三つずつ、自分と蓮に発動する。
「つまり、答えは———」
「———遭遇した紅竜が『特殊個体』であり、通常の個体よりも強かったってことだ」
「オォオオオオオオオオ!!!!」
二人から発せられる魔力から何かを感じ取ったのか、紅竜は『炎の
「そして、問題は『特殊個体』がどんな魔法を持っているかだが……」
「紅く光り輝いた次の瞬間、急に強くなったことから考えられるのは二つ」
「紅竜は『光魔法』か『強化魔法』による強化を行ったのだと推測できた」
「よって……」
「「真正面から戦う以外に勝ち目はない!」」
迫りくる火を蓮は刀で、蒼衣は『光刃』で切り落とす。
「てことで、蓮! 『弱体化魔法』を発動するまでの時間を稼げ!」
「任せろ!」
蒼衣の指示に従い、一瞬で紅竜との距離を詰める蓮。
自身より何倍も大きい紅竜に、蓮は怯むことなく刀を振るう。
「グルゥウウウ!!!」
「うっ、マジかよ……!」
紅竜が振り下ろす凶爪を受け止めるも、その重さに思わずバランスを崩す蓮。
追撃とばかりに炎竜がもう片方の腕を振り上げようとするが……
「『力低下』『防御低下』『敏捷低下』『魔力低下』!」
蒼衣の『弱体化魔法』が発動し、突然自分の力が弱くなった紅竜は地面に倒れ伏す。
生まれたすきを逃さまいと、蓮が凄まじい速さで剣を振るい、傷をつけていくが……
「やっぱりこの程度では駄目か~」
「ダメージは確実に与えているんだろうが、微々たるものだろうな」
冷静に分析しながら攻撃を躱す二人。
「うっ……」
「天川君、大丈夫!?」
すると、気絶していた天川達が次々と意識を取り戻し始めた。
「天川! 傷がある程度回復したら手を貸してくれ!」
「近藤達も回復を終えたら、支援だけでもいいから手伝ってくれ!」
「おうっ! 任せとけ!」
「……」
二人の呼びかけに近藤達は力強く答えるも、天川や主力メンバーは地面に座り込むだけで返答はない。
「天川、どうした? 受けたダメージが大きかったのか?」
「……無理だ」
「「は?」」
問いかけに対し返された天川の言葉に、思わず二人は素っ頓狂な声を上げる。
「聞こえていたぞ! あの紅竜は『特殊個体』なんだろ!? 僕達じゃ勝てるわけがない!」
「蒼衣の『光魔法』による能力向上だけでなく、後方支援も準備万端。勝機は十分にある」
「負ける可能性もあるんだろう! だったら、ここは撤退するべきだ!」
そう言い、天川達は通路に逃げて行った。
「チッ……また逃げやがった……!」
「星野、どうする? 俺達だけだと勝機は少ないぞ?」
その光景を眺めながら蒼衣が舌打ちをすると、近藤が小声でどうするつもりかと問いかけてきた。
「俺と蓮が真銘魔法を使えば勝機は十分にあるが……」
「真銘魔法は発動までに時間がかかる……つまり、俺達が時間を稼がないといけないんだな?」
「……行けるか?」
「一分でいいなら、やってみせるぜ」
「……分かった、お前達に俺と蓮の命を預けさせてもらう!」
そう言うと、蒼衣は今も紅竜と正面から対峙する蓮に後ろに下がるよう指示を出す。
「近藤達が時間を稼いでくれる間に真銘魔法を発動させるぞ」
「了解だ!」
蓮と入れ替わるように紅竜に突撃していく近藤や死角から攻撃を放つ騎士団を一瞥すると、二人は真銘魔法を発動させるために膨大な魔力を集めていく。
「一分で良い! 時間を稼ぐことに集中しろ!」
「騎士団は勇者の後方支援に徹し、彼らが少しでも負傷したら回復できるよう準備をしておけ!」
『了解!』
闘気を漲らせ、己の全てをもって紅竜に立ち向かって行く近藤達。
(あと三十秒……!)
近藤は自身の背後で膨大な魔力が集まるのを感じ取りながら、自身の獲物を振るいながら必死に紅竜の攻撃を防ぐ。
(あと二十秒……!)
サラバルドは余波で飛んでくる攻撃をなんとか防ぎながら、二人の方へ視線を向ける。
「 【此の身に眠る
「 【
紡がれるは、この世界における魔法の極致の詠。
(あと十秒……!)
通常の魔法とは比べ物にならない程の強さを誇る力を、二人は明確な意思——紅竜を倒す——を持って顕現させる。
「 ———【
「 ———【
ちょうど一分。
「待たせたな、お前ら!」
「あとは俺達に任せろ!」
要望通りの時間を稼いでくれた仲間たちに激励を送りながら、二人は紅竜との一瞬で詰める。
「行くぜ、紅竜!」
「第二ラウンドの開始だ!」
そして、雄たけびと共に二人と一匹による全力の『殺し合い』が始まった。
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