第24話
そして、翌日。
遂に『奈落』攻略の日がやってきた。
「いよいよだな」
「流石に緊張するな」
目の前に広がる巨大な門に、蓮と蒼衣が興奮を隠し切れない声音で話していると、英司とリーナが二人の背中を軽く叩く。
「二人とも、興奮しすぎ」
「そうそう、そんな状態で迷宮に入ったら、間違いなく体がもたないよ」
まぁ、俺達も気持ちは分かるけど、とおどける二人に、蓮と蒼衣は体中に巡っていた興奮が冷めていくのを感じた。
「確かにそうだな、少し興奮しすぎたな」
「紅竜までは抑えておかないとな」
四人で笑っていると、ゴートが全員の前で演説を始める。
「攻略部隊は全員『遠映の首飾り』を身につけているな?」
ゴートの言葉に、攻略部隊の面々は首にかけた魔道具を掲げながら頷く。
起動させることで、遠くにいる者と視界を共有できる、という破格の能力を備えた魔道具だ。
「よしっ、それでは、これより『奈落』の攻略を開始する! 総員、突撃!」
『応ッ!』
そして、響く雄叫びと共に、天川を先頭に攻略部隊が『奈落』へと突入した。
――――――――――――
「『
「グルォオオオオオ!!!!」
「皆、僕に続いて!」
『応ッ!』
上級魔法で魔物を次々と倒しながら、天川達は信じられないスピードで下の層へと進んでいく。
「飛ばしすぎだろ……」
「時間をかけたくない気持ちは分かるが、騎士団の奴らが疲弊しているのに気づかないのか?」
そう言いながら、蒼衣は後ろで肩を激しく上下させている騎士団の面々に視線を向ける。
「大丈夫か?」
「問題、ない……これでも王国の守護を担う騎士団の人間、だ……!」
途切れ途切れになりながらも毅然と答えるのは、副団長のサラバルド・ナースト。
ゴートが騎士団の中で最も信を置く騎士である彼の姿を見て、蓮はため息をつく。
「サラバルド、お前はゴートから部下を預かったんだろ?」
「だったら……何だ……!」
「無駄な意地を張っていると、アイツらが死ぬぞ?」
「ッ!」
蓮の言葉に、サラバルドは目を見開く。
「別にお前達が天川達に直接伝えろ、とは言っていない。ただ、お前達の本音を聞かせろ、と言っているんだ」
「……このままでは、あと五階層もしない内に、我々は全滅するだろうな」
「ということは?」
「休息を取りたい……出来るだろうか?」
「任せろ」
サラバルドが不安な眼差しで見つめるも、蒼衣はそれに力強い声で答えると、天川達に近づく。
「天川、ちょっといいか?」
「……星野か、何の用だ?」
「いや、ちょっと疲れたからな、この辺りで休息を取らせてくれないか?」
「まだ目標階層の半分までしか来ていないのに、休息?」
天川達が非難の眼差しで見つめるも、蒼衣はお構いなしに休息を取り始める。
「天川、お前達も先頭で魔物と戦っていたから、魔力はそれなりに減っているだろ?」
「まぁ、そうだが……」
「このまま進んで、目標の階層に到着したとして、万全でない状態で紅竜に勝てる、と思っているのか?」
「そ、それは……」
「お前達が紅竜に負けたら、支援部隊の俺達や騎士団の命も危うくなることを分かっているよな?」
「そ、それは、そうだが……」
「なら、やはり、一度、休息を取るべきじゃないか?」
「……分かった、僕達の魔力が回復したら、すぐに探索を再開する」
唇を噛みながら、こちらに自身の考えを伝える天川。
蒼衣はそれに対し、ため息をつく。
そして……
「阿保、ここにいる全員の体力と魔力が回復してからに決まっているだろうが」
天川の意見を、バッサリと切り捨てる。
「なっ!? 勝手なことを言うな!」
「勝手なこと? それはお前の方だろ?」
「僕は休息を取る、と言っただろ! それの何が勝手なことなんだ!」
憤慨する天川に、蒼衣は表情を変えることなく説明を続ける。
「休息をするのであれば、全員が万全で動けるようになるまで待つのは当然だろうが」
そう言いながら、蒼衣は騎士団の方へ視線を向ける。
「騎士団の面々が万全になれば、他の魔物への対応もやりやすくなるからな、理解したか?」
「……分かった、好きにしろ」
その言葉を最後に天川達はその場から離れ、休息を取り始める。
それを確認した蒼衣は騎士団の面々にも休息を取るよう指示を出す。
「すまない、助かった」
休息中に、セラバルドを含む多くの騎士団員から感謝の言葉を告げられたが、蒼衣は「気にするな」と返すのみ。
その光景に「なんでアイツが……」と天川達が愚痴を零すが、それに気にした素振りは見せず作戦を確認する蒼衣達。
「次の休憩は三十階層で取るのか?」
「予定ではな。だが、迷宮では何が起こるか分からないからな、臨機応変に対応するぞ」
「了解、っと」
そう言いながら、手入れの終わった武具を装備していく蓮。
「そういえば、その【不壊の一太刀】を使っていたよな? 実際に使ってみて、どうだった?」
蒼衣はそれを眺めながら、ふと目に留まった【不壊の一太刀】について問いかける。
「そうだな……驚くほど頑丈な刀、って所だな」
「ほう……具体的には?」
「『
「マジか……」
告げられた内容に蒼衣は驚愕する。
『岩石亀』の甲羅は中級魔法でも傷をつけることが出来ないほど硬く、苦戦したことを思い出しながら蒼衣は頬を引きつらせる。
「……とんでもない物を手にしたな」
「だよな……調整が間に合って良かったぜ」
互いに顔を見合わせながら苦笑していると、セルバルドが騎士団全員の休息を終えたことを伝えてきた。
蒼衣はそれに頷くと、天川達へ声をかける。
「こっちは全員の休息が終わったが、そっちはすぐにでも行けるか?」
「当然だ。僕達はお前達と違って、とっくの昔に休息を終えていたからな」
「そうか、ならいい。すぐにでも出発してくれ」
「チッ……」
皮肉?を受け流された天川は苛立ちを見せるも、今は迷宮攻略が目的のため舌打ちだけで済ませ、仲間を引き連れて先頭を進んでいく。
「はぁ……」
蒼衣は子供のような反応を見せる天川に呆れながらも、支援部隊の仕事を果たすために黙って彼らの後を追うのだった。
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