第26話
一方、その頃。
「蓮……蒼衣……!」
「いくら真銘魔法を使えど、二人だけでは……!」
地上で待機していた英司たちは『遠映の首飾り』を通して送られる光景に、思わず狼狽の声をあげる。
「勇者が二度も逃げるとはな……」
「陛下、どうなさいますか?」
「ゴートよ。お前の目から見て、勝機はどの程度だと思うか?」
「……一割ほどかと」
バイゼルの問いかけにゴートは苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「理由は?」
「二人の真銘魔法は強力ですが、膨大な魔力を消費するので持久戦には向いていないのです」
「なるほどな……」
そう言いながら顎に手をあてるバイゼル。
(アイツらが場所は四十階層。今から援軍を送って間に合うだろうか……)
頭の中で様々な策を講じていると……
「へ、陛下! よろしいでしょうか?」
「ん? どうしたのだ、英司よ?」
何か思いついたのであろう顔をする英司がバイゼルに自身の意見を述べる。
「このままでは二人の魔力が先に底をついてしまうのですよね?」
「そうだ」
「故に、私……いえ、僕に『奈落』へ突入する権利を下さい!」
『ッ!』
英司の口から発せられた内容にバイゼル達は目を見開く。
「英司、何を言ってるの!?」
「自分の身体が一体どんな状況なのか分かっていないですか!?」
リーナとソフィアが「冷静に考えろ!」と英司に詰め寄るも……
「僕の真銘魔法なら魔力を回復させることができるので、少なくとも二人が魔力切れで負けることはありません」
「「ッ……!」」
その瞳に映る並々ならぬ覚悟に、思わず息を呑む。
「仮にお前が向かうとして、ここから四十階層まではかなりの距離があるぞ?」
「『奈落』には多くの縦穴が存在しており、そこから直下すれば正規ルートよりも早く四十階層に到着できます」
「……正気か?」
英司が告げた策にバイゼルは目を見開く。
「確かに『奈落』には下に通じる縦穴があるが……どうやって降りるつもりだ?」
「風魔法を応用して減速しながら降りるつもりです」
「なるほど……それならば可能か……」
具体的な内容も考えているため、バイゼルは英司が『奈落』へ突入することを許可しようとするも……
「それでも私は反対です!」
「絶対に行かせない!」という強い意志を感じさせる眼差しで英司を見つめるリーナ。
「縦穴を直下したとしても四十階層に直接行くことはできない! 必ず道中で他の魔物と遭遇する!」
「もちろん、多少の怪我は覚悟しているよ」
「英司は呪いの影響で本来の実力の半分しか出せないのよ! そんな状態で紅竜と戦っても勝てるわけがない!」
「勝てないんじゃなく、勝てる可能性が少ないだけだよ」
リーナがどれだけ説得を試みるも、英司は全く揺るがない。
「で、でも……!」
「リーナ、そこまでにしておけ」
リーナは諦めず説得を続けようとするも、バイゼルがそれを制止する。
「これ以上説得しても無駄だ。こいつはもう覚悟を決めている」
「ッ!……だったら、私も『奈落』に行かせてください!」
「り、リーナ!?」
リーナの突然の提案に英司は驚くが、バイゼルはそれを予想していたのか「やれやれ」と首を振りながら笑みを浮かべると……
「分かった。お前と英司に『奈落』への突入を許可する!」
「ありがとうございます、父上」
「え、あ、えっと……あ、ありがとうございます」
二人に『奈落』への突入の許可を出す。
そして、ゴートが用意してくれた装備を二人は身に纏い……
「よしっ!」
「では、行ってきます!」
「気を付けるのだぞ」
「ご武運を」
「頑張って!」
バイゼル達の応援を背に『奈落』へと突入していくのだった。
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