第22話
「よしっ、その武器はタダで譲ろう!」
「え、いいのか!? 絶対、これ高いぞ!?」
「どうせ、お主以外触れないのじゃ。なら、使えるお主の傍に置いておくのが、武器にとっても良いだろう?」
「ま、まぁ、そういうことなら、ありがたく頂くぜ」
そう言うと、蓮は手にしている刀を軽く振ってみる。
「どうだ?」
「……ヤバいな」
蒼衣の問いかけに、蓮は歪な笑みを浮かべながら答える。
「多分だが、今、俺が持っている剣よりも、数段上だぞ」
「……一日で使いこなせるようになるか?」
「無茶をすれば、なんとか、ってところだな……」
蓮はそう言いながら、一連の動きを試し終えると、刀を鞘に収める。
「なぁ、この刀についての情報を知りたいんだが、他に知っていることはないか?」
「ん-、すまんのう、大した情報は持っておらぬ」
「そうか、なら、もう少し他の剣を見てもいいか?」
「あ、俺もいいか? さすがに予備が一つもなかったら、困るからな」
「構わんぞ、気のすむまで見て行ってくれ」
そう言う店主に甘え、二人は時間をかけて武器を厳選していく。
すると、店の扉が開き、外から見飽きた顔ぶれが入ってくる。
「ここが武器屋……前回の攻略の時は行く機会がなかったんだよね」
「何か、良い武器があればいいんだが……」
「あ? そこにいるのは、陰キャ共か?」
「蒼衣、一回真面目に俺達に呪いがかかっていない調べないか?」
「奇遇だな、俺もこいつ等と接触するのには、何かしらの呪いがあると思っているぞ」
不快、という気持ちを一切隠さない顔で、この場に現れた天川達を睨む二人。
しかし、それは向こうにとっても同じこと。
険悪な雰囲気を感じ取った店主が息を潜める中、天川達が二人に近づく。
「そこをどいてくれないか、僕達は武器を買いに来たんだ」
「俺達もだが?」
「卑怯な手を使う岩本達に武器なんて必要ないだろ?」
「あー……なら、お先にどうぞ、っと」
無駄な問答をしたくない蓮達はそう言うと、天川達に場所を譲る。
各々、数分ほど飾られている武器を試すと、全員が新たな武器を片手に会計を済ませようとする。
「お主ら、随分あっさりと決めておったが大丈夫なのか?」
「あぁ、予備の武器だからそこまでのこだわりはないんだ。お金はこれで足りるか?」
手渡された袋の中身を確認した店主が頷くと、天川達はすぐに店を出ていった。
それを見送ると、三人は大きなため息をつく。
「こだわりがない、って……」
「予備の意味、アイツら絶対知らないだろ……」
「お主らと顔見知りのようだし、同じぐらい時間をかけると思ったが全然違ったのう」
「じいさん、それだけはないぜ~」
「そうそう、アイツらは簡単に死ぬタイプだぞ」
二人の言葉に店主も「そうじゃのう」と髭をさすりながら微笑む。
「よしっ、俺はこいつにするぜ!」
「俺は……こいつだな」
「おっ、決まったようじゃのう」
予備の武器を選び終えた二人も同じようにお会計を済ませ、軽く店主に礼を言うと、店を後にした。
「どうする? すぐにでも調整に入るか?」
「んー、一旦、ゴートに相談しようぜ。もしかしたら手伝ってくれるかもしれないしな」
「オッケー。なら、一先ず、宿に戻るか」
今日の予定を決め終わった二人は、宿に向かいながら話していると、自然と話題は英司とリーナに関する物になっていた。
「なぁ、少しは進展すると思うか~?」
「どうだろうな、英司は鈍感だし、王女様は意外と奥手だからな~」
「そのせいで、俺達はもどかしい思いをしているんだよな~」
「まぁ、気長に見ておこうぜ。俺達の中で唯一、彼女が出来るタイプだし」
蒼衣の言葉に、蓮は元いた世界での日々を脳裏に浮かべる。
———
「岩本、星野、ちょっといいか?」
「あ?」
「何の用だ、天川?」
「二人がクラスの懇親会に参加しないって聞いたけど、何か用事があるの?」
「いや、ないが?」
「普通に行きたくないだけだが?」
二人がそう言うと、天川が顔を顰めながら、訳の分からないことを言いだした。
「身勝手な理由で不参加が、クラスの皆に迷惑がかかると思わないの?」
「なるわけないだろ」
「頭沸いてるのか?」
毅然とした態度で言い返す二人に、天川は顔をさらに顰めながら詰め寄ろうとするも……
「ご、ごめん、天川君! 二人には僕の手伝いをしてもらう予定なんだ!」
「手伝い?」
「う、うん。近所でお祭りがあるんだけど、人手が足りなくて、二人にお願いしていたんだ」
間に割り入った英司が申し訳なそうな顔をしながらそう言うと、
「なら、なんで岩本たちは『行きたくない』とか言ったんだ?」
「そうしたら二人は参加できない原因を作った、って僕の方に矛先が向いてしまうと思ったからじゃないかな?」
「……分かった、岩本、星野、そういうことなら僕も素直に受け入れるから、嘘を言う必要はないぞ?」
「悪かったな~」
「まぁ、お前達はお前達で楽しんでくれや」
二人がそう告げると、天川は満足げな顔でいつものメンバーの所に戻って行った。
それを横目に、二人は英司を詰め寄る。
「……で、なんで嘘をついたか説明してもらおうか」
「い、いや、だって、こうでもしないと天川君、納得してくれないでしょ?」
「だからといって、お前が泥を被る必要はないはずだ」
口では「問題ない」と言っていたが、内心はお前のことをよく思っていないはずだぞ、と蒼衣が言うと、
「まぁ、その時はその時だよ。それに本来、こういう催しは強制じゃないからね。二人が間違ったことをしてるとは思えないよ」
「この、お人好しが……」
「自分が一番被害を被ってるだろうが……」
英司はあっけらかんとした表情で答え、二人は思わず、苦笑いを浮かべるのだった。
———
「……アイツ、俺達がおらんかったら、大分モテてそうじゃないか?」
「んー、良い奴なのは間違いないが、モテていたかは怪しいと思うぞ」
「性格が良いだけじゃ駄目なのか?」
「俺が聞いた限りではな」
元居た世界でも、それなりに人間関係を構築していた蒼衣の言葉だ、きっとそうなのだろうと、と蓮は納得する。
「まぁ、俺達としては変な女に捕まらないなら何でもいいけどな」
「その点、王女様は腹黒な一面もあるが、恋愛には初心だ。落とせばイケる」
「立場を気にせず接してくれる異性、王族には効果抜群だぜ!」
「まぁ、そう言う点では天川に惚れていてもおかしくなかったがな……」
王女様、まともで良かった~、と二人が声を揃えてそう言っていると、いつの間にか今日泊まる宿に到着していた。
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