第21話

 各々が明日の攻略に向けて備える中、英司たちは街を散策していた。


「す、すげぇ! 街だ!」

「画面の向こうにしかなかった世界だ!」

「いや、王都も街だったよね?」

「「パレードのせいで楽しむ余裕がなかったんだよ!」」

「あ、そう……」


 目を輝かせる二人に、英司は呆れながら、先ほどから一切話さないリーナの方へ視線を向ける。


「リーナ、さっきから黙っているけど、どうしたの?」

「べ、別に、どうもしてないけど……///」

「なら、どうして目を逸らすの?」

「き、気にしないで! ほら、英司も街を散策しよ!」


 頬を赤らめ、少し早口で話すリーナに英司は首を傾げながらも、一先ず、街を散策していく。

 二人の先を歩き、様々な屋台を見て回っている蓮達を追いかけていると、ふと視線が集まっているのを感じた。


(なぁ、あの子、可愛くねぇか?)

(隣にいるのは彼氏か? 釣り合ってねぁな~)


 ひそひそと話しているようだったので、聞き耳を立てると、そんな会話が聞こえ、英司は思わず肩を落とす。


(ま、まぁ、確かにそうなんだけど……)


 そう自嘲しながらも、自分達がそのような関係に見える理由が見当たらず、英司はリーナに問いかける。


「ねぇ、リーナ。僕達、恋人に見えるみたいだけど、どうしてだと思う?」

「こ、恋人!?///」

「うん、そう見えるみたいだよ?」

「ち、ちなみに英司はそう見えるのに心当たりはないの?」

「残念ながらね」

「ふーん」


 そう言うと、リーナが不機嫌そうに唇を尖らせたため、英司が困惑していると


「英司ー! 俺達は俺達で散策するから、二人で楽しんどいてくれ~」

「王女様とはぐれないように、手を繋ぐぐらいはしとけよ~」


 二人はそう告げると、走ってどこかへ行ってしまった。


「はぁ……あの二人は自由なんだから」

「……ま、まぁ、はぐれたらいけないのは確かだし、手はちゃんと握っておいてね?」

「はいはい」

「!?///」


 言われた通り、握っていた手をさらに強くすると、リーナは再び顔を赤らめる。


「ここまでやって気づかないなんて……」

「えっと……ごめん、教えてくれないかな?」

「……英司となら『そういう関係』に見えてもいいよ、ってこと」

「ッ! そ、そっか……ありがと……」

「べ、別に、お礼を言われるほどのことじゃないから」


 リーナの言葉に、英司も顔を赤らめ、再び、二人の間に沈黙が生まれる。


「……と、とりあえず、何か小腹を満たす物でも買おうか?」

「そ、そうだね! せっかく街に来たんだしね!」


 互いに気まずそうにしながらも、少しずついつもの調子を取り戻しながら、二人は街を散策するのだった。


 一方、蓮達はと言うと……


「この武器は、少し重すぎるか……?」

「この杖、容量は大きいが、一度に放てる魔力はそれほどでもないな」


 先ほどまでの騒ぎっぷりはどうした、と言わんばかりに真剣に各々の新たな獲物を確認する二人。


「お前さんらは若いのに、偉いのぉ~」


 すると、店主であるおじいさんが感心したように微笑む。


「偉い? 何がだ?」

「そうやって、武器を時間をかけて選ぶことが、じゃよ」

「普通のことだろ?」


 武器は自分の半身とも言えるため、それを蔑ろにするはずがない、と表情で訴えると、店主はさらに笑みを深める。


「若い冒険者のほとんどは、見た目さえよければ何でもいいと思っているからの、お前さん達のようなのは珍しいのじゃ」

「ふーん、まぁ、そういう奴もいるんだろうな~」

「俺達も武器が大事なのは、訓練のおかげだもんな~」


 そう言いながら、並べられた武器を丁寧に見て回る二人。

 すると、蓮がとある武器の前で立ち止まり、静かに見つめる。


「これは、刀?」

「確かに似ているが、どうして、この武器が……?」


 かつて、蓮達が暮らしていた世界にあった、片刃という特徴を持つ、刀に似た武器を前に、蒼衣も目を奪われる。


「おっ、その武器を知っておるのか?」

「いや、これに似た武器を見たことがあるんだ」

「じいさん、この武器はどうやって手に入れたんだ?」

「昔、旅の冒険者がくれた武器での、『もし使える者がいたら、渡してくれ』と言われたのじゃ」


 店主の言葉に、二人は首を傾げる。


「武器を置いていく、って意味が分からねぇよ」

「というか、使える者って、これまでにいたのか?」

「いいや、おらんかったの」


 そう言いながら、店主が刀に触れようとすると……


「「ッ!?」」

「見ての通り、見えない結界で防がれるのじゃ」

「いや、もうそれ、邪魔な置物だろ?」

「触れない武器とか、武器屋では売れないゴミだろ……」


 思わず、真顔で突っ込む二人に店主も困った顔をする。


「まぁ、いつまでもこの武器の使い手がいないのは可哀想と思ってしまうのう」

「……んー、じいさん、一応、俺も挑戦していいか?」

「構わんぞ~」


 店主の許可を得た蓮が刀に触れようとすると、蒼衣がそれを制止する。


「蓮、先に俺にやらせてくれないか?」

「? 別にいいが、どうしてだ?」

「さっきの結界は、俺の知らない物だった。となれば、新しい魔法を知るには良い機会だと思ってな」

「オッケー、なら、お先にどうぞ~」


 蓮が許可したことにより、蒼衣は刀に触れようとするも、当然、結界で防がれる。


「さて、解析開始、っと」


 蒼衣がそう呟くと、結界と触れ合う部分が小さく光り始めた。


「あの小僧は何をしておるのだ?」

「まぁ、簡単に言うと、あの結界について調べているんだ」

「ほう、興味深いのう」


 蓮と店主が軽く会話をしていると、次第に光が弱まり、蒼衣が額を拭う仕草をする。


「終わったぞ」

「どうだった?」

「【魔導】の力の一つ、解析で調べてみたが、この魔法、条件次第では上級魔法よりも強力だぞ」

「マジかよ! ちなみに、使えるか?」

「明日までに使えるようになるのは無理だな」


 一応、知識だけは後で渡しておく、と言うと、蒼衣は蓮の番だと促す。


「さて、やってみるか」

「なんとなく、予想はできるけどな」

「あんまり期待はするなよ~」


 そう言いながら、蓮は刀へと手を伸ばす。


 そして……


「え、マジか……」

「ほら、やっぱり触れた」

「おー! まさか、本当に触れれる者が現れるとはな!」


 あんぐりと口を開ける蓮に対し、蒼衣は冷静に事実を受け止め、店主は喜びをあらわにした。

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