第19話

 翌日、王城を出発した攻略部隊は、王都で出陣パレードを行っていた。


「あぁ……笑顔振りまくのダリィ……」

「なんですぐに『奈落』に行かないんだよ……」

「仮にも、僕達は勇者だからね、こうして国民に希望を持たせる必要があるんだよ」


 笑みを浮かべながらも、口では悪態ばかりつく二人に英司は苦笑いする。


「はぁ……そんなことは天川達にだけ任せればいいだろ」

「俺達は『奈落』に行くだけなのによ~」

「まぁ、すぐに終わるから、今だけは耐えよ?」


 その後、一時間ほどでパレードは終わり、蓮達は『奈落』の街に向かうために、森を通り抜けようとしている時だった。


「魔物の群れだ! 総員、戦闘態勢を取れ!」


 突如、魔物の大群が現れ、ゴートの号令が部隊全体に響き渡った。


「チッ……スケルトンかよっ!」

「一匹一匹は大したことはないが、群れとなると純粋な物量に押し負けるんだよな」


 カタカタ、と音を鳴らしながらこちらに向かってくる骨だけの魔物、スケルトンに蓮達も戦闘態勢を取る。


「皆、行くぞ!」

『おう!』

「なっ!? お前達、隊列を乱すな!」


 すると、天川達はゴートの命令を聞かず、我先にと魔物の大群へ突っ込んでいく。


「くそっ、他部隊は魔物が非戦闘部隊に行かないよう守備に徹しろ!」

『了解!』


 ゴートは瞬時に別の命令を下し、騎士団の面々もそれにすぐさま応じる。


「俺と蓮が前に出る! 英司とリーナは後方から魔法で攻撃し、騎士団は連携して魔法で弱ったスケルトンを倒せ!」

「任せたぞ!」

「分かった!」

「無茶はしないでくださいね!」


 蒼衣達もすぐさま指示に飛ばし合い、スケルトンとの戦闘を始める。

 しかし、二百を超える魔物の大群に対して、こちらの戦闘員は全部で五十程度。

 天川達の部隊が抜けたことで、四十にも満たない数での魔物との戦いは当然、苦戦を強いられる。


「情報通り! 防御だけは異常に高いな!」

「魔法でも一発では倒せないっと」

「二人とも、背後から来ている!」


 英司の声に、二人は瞬時に反応し距離を取る。


「 【その光をもって、敵を打ち倒せ】———【勇気之剣エクスカリバー】! 」


 遠くでは天川が強力な真銘魔法でスケルトンを薙ぎ払っていたが、


「うわっ、アイツ、森を破壊しているぞ……」

「この森には多くの動物が住んでいる、ってゴートが言っていたのにな……」


 蓮達は呆れを隠さずため息をつく。


「魔物を倒すことの方が大切です、とか言うんだろうな~」

「アイツ、自分の行動は絶対に正しいと思っているから怖いよな~」


 そう軽口を叩きながらも、二人は迫りくる魔物を倒していく。


「ねぇ、流石に異常じゃない?」

「異常? 何が?」

「いくらスケルトンが集団で戦う魔物とはいえ、この数は多すぎると思わない?」


 リーナの問いかけに、英司は魔物を迎撃しながら、自身の考えを述べる。


「これだけの数を統率している存在がいると考えているんだね?」

「えぇ……」

「なら、前言っていた『特殊個体』がいる可能性があるね」

「多分だけど、スケルトンキングっていう『特殊個体』が近くにいるはずだよ」


 問題はどう見つけるか、と言いながら、リーナが難しい顔をしていると


「なら、俺に任せろ」

「蒼衣?」


 いつの間にか、英司たちのもとまで下がっていた蒼衣が二人を見る。


「キングってことは、ゴブリンキングみたいに魔力が高いんだろ?」

「本にはそう書いてあったけど……」

「なら、俺の魔力探知で大きい魔力を見つければいいだけだ」


 蒼衣の言葉に一瞬納得しかけるも英司は首を振る。


「それだと蓮が一人で戦うことになる! 流石にそれは危険だ!」

「策は用意してある」


 英司の反論に、蒼衣は準備していた光魔法を蓮に使用する。


「蓮! 今、お前に『防御向上ディフェンスグロウ』を五つ、重ね掛けした! 一分で良い、死ぬ気で耐えろ!」

「了解だぁ!」


 蓮は自身の『強化魔法』も発動しながら、魔物の海へと突っ込んでいく。


「耐久勝負、あの魔物たちにはそれ以外の策なんて必要ない」

「い、いくら、蓮でもあの数を一人じゃ……」

「今はアイツを信じろ。どのみち、このままじゃ物量で押し切られる」

「……なら、蒼衣も早く見つけてよね。僕もリーナも長くは持たないよ?」

「任せろ」


 そう言い、全力の魔力探知を行う蒼衣。


(五十メートル……反応なし、百メートル……反応なし)


 探索範囲を徐々に広げるも、近くに巨大な魔力を持った生物は見つからない。


(チッ、やっと、大きい魔力の塊を見つけたかと思ったら、二百メートルも先かよ)


 捕捉したはいいものの、あまりに離れているために魔法も届かないため、蒼衣が顔を歪める。


「蒼衣! それらしきものは見つけた?」

「見つけれたが、ここから離れすぎているから、俺の魔法も届かないんだ……」

「くそっ、一体どうすれば……!」

「一分、耐えたぞぉ!」


 蒼衣が頭を抱えていると、言われた通り一分耐えた蓮が体中をボロボロにしながら、二人のもとまで下がってきた。


「おっ、蓮、ちょうどいいところに来たな」

「え、何? 俺、結構ボロボロだよ?」

「ここから南に二百メートル先に膨大な魔力を持つ魔物がいるから、倒して来いよ」

「いや、馬鹿なの? 普通に死ぬぞ?」


 蓮が真顔で突っ込むも、蒼衣は無視して、ゴートに連絡を取る。


「ゴート、『特殊個体』らしき魔物を捕捉したから、蓮に任せていいか?」

『お前達の部隊は、一人でも欠けるとまずいのではないか?』

「それはどの部隊も同じだ。かと言って、天川達に任せるわけにはいかないだろ?」

『……分かった、蓮の単独行動を許可する』


 魔道具で情報を伝え終えた蒼衣は、とてもいい笑顔で蓮の肩を叩く。


「許可は取ったから、早く行ってこいよ、脳筋」

「はぁ……『敏捷向上』を二つ寄こせ」

「はいよ、っと」


 要求通り、蒼衣は『敏捷向上』を蓮にかける。


「さすがに森の中を移動するとなると、五分はかかるから耐えろよ?」

「なら、さっさと倒して来い」

「了解だ!」


 地面が陥没するほど踏み込んだ蓮が次の瞬間、風を纏い、森を駆け抜けて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る