第12話

「ほう、想像以上だな」

「お父様から見ても、やはり、お二人は強いのでしょうか?」

「我が国最強の騎士が手加減をしているとはいえ、拮抗した勝負を繰り広げているのだ、強いに決まっている」


 訓練場の中央で繰り広げられる凄まじい戦いに、バイゼルは感嘆の声を漏らす。


「君は確か、英司だったか?」

「え、あ、はい!」


 突然、名を呼ばれた英司は驚きながら、バイゼルの方を見る。


「まずは、ありがとう」

「え、ちょ、陛下! 私なんかに頭を下げたらいけませんよ!」


 すると、バイゼルが深々と頭を下げたため、英司は困惑しながらも頭を上げるよう促す。


「娘を助けてもらったのだ、ならば王ではなく、一人の父として頭を下げるのは当然のことだ」

「で、ですが……」

「英司、こう言う時は素直に礼を受け取っておく方が何かと都合がいいんですよ?」

「そ、そうなの?」


 戸惑いながらも、英司はバイゼルの方に視線を戻す。


「へ、陛下のお気持ちは十分に頂いたので、どうか頭を上げてください」

「本当にありがとう」


 そう言った次の瞬間、バイゼルは人当たりの良い笑みを浮かべながら、英司の肩に自身の腕を回す。


「で、ここからが本題なんだが、俺の前では畏まりすぎなくていいし、『お義父さん』と呼んでくれていいぞ」

「え……?」

「ちょ、ちょっと、お父様! 何を言ってるんですか!」


 とてもいい笑顔で、とんでもない爆弾発言をするバイゼルに、リーナが顔を真っ赤にしながら詰め寄る。


「私と英司は、そのような仲ではありません!」

「そうか? しかし、お前がそこまで心を許す異性を、少なくとも俺は見たことがないぞ?」

「そ、それはそうですけど……」


 バイゼルの指摘に、リーナは口ごもってしまう。


「英司よ、お前から見て、ウチの娘はどんな女性だ?」

「私から見て、ですか?」

「そうだ、お前の率直な意見が聞きたいんだが……」


 そう言うと、バイゼルは英司の肩に回していた腕を軽く締める。


「畏まりすぎなくていい、って言ったよな~? せめて、一人称は普段通りにしろよ~」

「わ、分かりました」


 バイゼルの軽い拘束を解かれた英司は、少し考える素振りを見せると、


「僕個人の意見としては、リーナはとても魅力的な女性だと思いますよ」

「ッ!?」

「ほう、具体的には?」

「そうですね、才能があっても決して驕らず、ひたむきに努力できるのが個人的には、一番魅力的ですね」

「~~~ッ!!!!」

「はっはっは、そうかそうか! やはり、お前は面白いな!」


 熱でもあるのかと言いたくなるほど、顔を真っ赤にして俯くリーナを横目にバイゼルは笑い声をあげる。


「容姿などではなく、努力できることが魅力とはな!」

「そ、そんなにおかしいことでしょうか?」

「この国の男は、基本、容姿しか褒めないからな、お前のような者は少ないのだよ」


 バイゼルはそう言いながら、心中で、英司コイツなら娘の婚約者としても問題なかろう、と思っていると


「陛下、戯れはそこまでにしてください」


 眉間を押さえ、苦言を呈しながら、ゴートが三人の傍まで近づいてきた。


 英司が訓練場の中央に視線を移すと、ボロボロではあるが、意識を失ってはおらず、先ほどまでの訓練の反省をしている二人が見えた。


「すまんすまん、あの二人だけでなく、こちらにも面白そうなことがあったのでな!」

「はぁ……で、いかがでしたか? 二人の実力は?」

「そうだな……確かに想像以上の強さだったが、アレは異常だな」


 そう言いながら、ゴートへ「何をした?」と胡乱な眼差しを向けるバイゼル。


「……私はただ、稽古をつけただけです」

「……お前、やりすぎて、ソフィア辺りに説教を食らったな?」

「……お答えできません」


 ばつが悪そうな目で答えるゴートに、バイゼルは「やれやれ」と肩をすくめる。


「まぁ、これだけ強いと、対抗戦はアイツらの圧勝だろうな」

「え、でも、攻略メンバーの方々も参加しますよね?」

「いや、アイツらは参加しないぞ?」


 バイゼルの言葉に「そうなのですか?」と首を傾げるリーナ。


「アイツらが出ると、他の奴らが委縮する可能性があるし、あくまで、追加メンバーを決める試合だからな」

「なるほど。でしたら、お二人が圧勝するでしょうね」

「周りから恨みを買いそうだから、心配だよ……」


 友の勝利を確信しているからこその心配をする英司にリーナが微笑む中、バイゼルは訓練場の中央で座り込む二人に声をかける。


「お前達よ! 褒美は何がいいか!」

「え、褒美?」

「なんで?」

「俺の無茶な要求に応えてもらったのだ、それ相応の褒美が必要であろう!」


 バイゼルがそう言うと、


「え、なんかある?」

「いや、これっぽちも」


 二人は突然の『褒美』という言葉に困惑し、今、自身が欲するものを必死に考える。


「なぁ、……ってのは、どうだ」

「お、いいな。とりあえず、頼んでみようぜ」


 すると、欲しい物が決まったのか、とてもいい笑顔でバイゼルの方へ視線を向ける。


「王様~、褒美はどんな物でもいいのか?」

「おう! 俺に用意できる物なら、なんでもいいぞ!」


 敬語が面倒になり、素で話す蓮に気にした素振りを見せず、バイゼルは快活に笑いながら答える。


「では、そこの王女様を英司親友の嫁にしてくれよ」

「は!?」

「ちょ!///」


 蓮の言葉に、英司は「コイツ、何言ってんの!?」と目を見開き、リーナは思わずバイゼルの方を見る。


「お父様、これは質の悪い冗談ですからね!」

「何故だ? 俺としては信頼のできる男に娘を任せたいのだが」

「それは王族でなければの話です! 私の場合、他国の王子との政略結婚も視野に入れておかないといけないのですよ!」

「んー、すまん、当の本人がこう言ってるから、褒美については、また後日に頼む!」


 バイゼルの言葉に、二人は「お気になさらず~」と答える。

 二人にとっても、叶ったらいいなぐらいの内容だったので、気にせず訓練に励もうとすると、


「ふふっ、どうして、今日もそんなにボロボロになっているのですか?」


 口元で笑みを浮かべているが、目が一切笑っていないソフィアが、いつの間にか背後に立っており、二人は思わず後ずさりする。


「ま、待ってください! 今日はボロボロになっただけで、意識は失っていません!」

「そ、そうです! 今日は言われた通り、無茶はしてません!」

「身体がボロボロになっている時点で、無茶してないわけがないでしょうが!」

『ご、ごめんなさーい!』


 お叱りを受け、肩を縮こまらせる二人は、ソフィアに引きずられながら訓練場を後にする。


「あ、ぼ、僕も行きます!」

「わ、私も!」


 先ほどの爆弾発言で、少し気まずそうにしていた英司とリーナも慌てて、その後を追っていく。


「やっぱりお前、やり過ぎたな?」

「……お答えできません」


 呆れた顔で指摘するバイゼルに、ゴートは再び目を逸らすのだった。

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