第11話

「ふふっ、来週の対抗戦が楽しみですね」

「僕としては、二人がやりすぎて、周りから恨まれないか心配ですよ」


 そう言いながら、英司が苦笑していると……


「……ムー」

「リーナ様?」


 リーナが突然、頬を膨らませて「不満だ!」と視線で英司に訴える。


「え、えっと、何か不快にさせるようなことを言いましたか?」

「英司様は気づいていないのですか?」

「は、はい……すみません、教えてもらってもよろしいでしょうか?」

「……口調」


 小さく呟かれた言葉に、英司は何度か目を瞬かせると、思い出したのか、ハッとした表情でリーナの方を見る。


「思い出しましたか?」

「は、はい……でも、やっぱり失礼じゃありませんか?」

「私が許しているのですから、問題ありませんよ」

「えー……」


 数日前、リーナから唐突に「敬語を外して、私の事も、リーナと呼んでください」と言われた時のことを思い出しながら、英司は説得を試みる。


「でも、リーナ様だって、僕の事を様付けで呼んでいますよね?」

「そ、それは……」

「それは?」

「命を救ってもらった恩人に敬意を払わないのは王族にあるまじき行為なので、私も引けません」

「そ、そうですか……」


 早口でまくし立てるリーナに英司が戸惑っていると、


「王女様~、ちょっといいか~?」

「え!? あ、はい!」


 いつの間にか近くに来ていた蓮に手招きされたリーナが二人のもとへ駆け寄る。


(おいおい、好きな男の名前も呼べないとか初心すぎるだろ?)

(根性見せろよ)

(む、無茶言わないでください! これまでに殿方を好きになった経験がなくて、どうすればいいか分からないんです!)

(別に「もし様付けが嫌なら、互いに敬語はなしにしませんか?」とか提案したら、なんとかなるだろ)

(アイツ、お人よしだから、いけるいける)

(貴方達、本当に友人なのですか?)


 思わずジト目を送るも、アドバイスをもらったリーナは早速実践しようと、英司のもとへ戻っていく。


「ふっ、いい仕事をしたな」

「まぁ、たまたまゴートが呼び出されて、訓練が休憩になっていたからサポート出来たんだけどな」


 互いに頬を赤らめながらも、楽しそうに話している英司とリーナを見て、二人は

「やった甲斐があった」と微笑む。


「蓮、蒼衣、少しいいか?」


 すると、背後からゴートの声が聞こえたので、二人がそちらに視線を向けると


「「え!?」」


 ゴートの隣にこの場にいるはずのない人間、国王バイゼルがいたため、二人は思わず驚愕の声を上げてしまう。

 二人の声に英司とリーナもゴート達の方に視線を移し、バイゼルを視界に捉えた瞬間、声こそ出さなかったが驚きの表情を浮かべる。


「ご、ゴート、なんで国王様がここに!?」

「それがな、陛下がお前たち二人の実力をどうしても見たい、と仰ってな」

「い、急がなくても、来週のチーム対抗戦で見れるのにか?」

「あぁ、私が個人的に指導してると聞いて、興味を持ったそうだ」

「そ、そうなんですか?」


 しどろもどろになりながらも、蓮が問いかけると、


「うむ、ゴートが個人的に指導する者など中々いないからな、気になって見にきたのだ!」


 いや、誰だよ、お前、と言いたくなるほど、陽気な声音で話すバイゼルに、二人は目を点にする。


「陛下、いくら非公式の場とはいえ、そのような態度は……」

「非公式の場であれば問題なかろう?」

「ですが……」


 ゴートの指摘をのらりくらりと躱し、バイゼルは二人へ視線を向ける。


「不躾だとは分かっているのだが、どうか頼めないだろうか?」

「ま、まぁ、一回だけなら……」

「本当か! では、頼んだぞ!」


 そう言うと、バイゼルは英司達がいる観客席の方へと移動していった。


「な、なんというか、凄いな……」

「初めて会った時よりも、裏表がない分、接しやすかったが、逆に困るな」

「それな! 一国の王に対して、流石に馴れ馴れしく出来ないよなー」

「二人とも、すまないな、陛下の我儘に付き合ってもらって」


 苦笑しながら謝罪するゴートに、二人は「気にするな」と、首を振りながら、それぞれの武器を手に構えを取る。


「見せるのは、いつも通りの訓練でいいのか?」

「あぁ、その方が陛下も満足するだろう」


 ゴートも同じように武器を手に構え、その目に闘志を宿す。


「始めるぞ」


 そして、小さな呟きを合図に、いつも通りの『死闘』が始まった。

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