第8話

「れ、ん……あお、い……」

『ッ!』


 ずっと眠っていた英司の声が部屋に響き、全員が目を見開く。


「だ、めだよ……」


 これまでの話が聞こえていたのか、途切れ途切れになりながらも言葉を発する英司。

 ゴートの拘束から解放された二人は、今も苦しんでいるであろう親友を静かに見つめる。


「ふ、たりが、しんだ、ら、いや、だ、から、ね……?」


 そう言うと、限界が来たのか、再び目を閉じ、静かに寝息を立てる英司。


「やられたな……」

「そうだな、普段は気弱なくせに、こういう時は、絶対に自分の意思を曲げないんだよな……」


 軽口をたたきながら、笑みを浮かべる二人。


「落ち着いたか?」

「あぁ、悪かった」

「若い者を止めるのは、老いぼれの役目だ」


 素で話す蓮に対し、気にした素振りを見せず、ゴートは片目を瞑る。


「で、お前達はどうする?」

「紅竜を討伐する、これは確定事項だ」

「だが、今じゃない」


 ゴートの問いかけに対し、二人は静かに答える。


「あぁ、時間が許す限り、鍛錬を積み……時が来たら、討伐に赴く」

「呪いが英司の命を奪うまでに、どれくらいの時間を必要とするんだ?」

「あくまで推測ですが、一カ月半だと思われます」


 ソフィアの言葉に二人は頷き、ゴートの方を見る。


「迷宮までの移動やらを考えても、一カ月は猶予がある」

「という事でゴート、一つ、頼みを聞いてくれ」

「何だ?」

「俺達に今よりキツイ、それこそ、俺達が一カ月で炎竜を討伐できるようにまで強くなれる訓練を、お前に頼みたい」

「……今とは比べ物にならないぞ?」

「覚悟の上だ」


 二人の強い意志を感じたゴートは「仕方ないな」と少しだけ苦笑する。


「分かった。明日よりお前達、二人には別の場所で訓練を行ってもらう。詳細は決まり次第、部下からお前達に報告させよう」

「あぁ、恩に着る」

「陛下の護衛を任され、王城から離れることが出来ない私にはこれぐらいしか出来ないのだ。気にする必要はない」


 そう言うと、ゴートは明日からの訓練を考えてくる、と言い、部屋から退室していった。


「俺達も、一先ず訓練に戻るか?」

「そうだな」


 一秒たりとも無駄にしない、そんな意思を全身から発しながら、蓮と蒼衣も部屋から去っていった。


「私、途中から空気じゃなかった……?」

「……ノーコメントで」


 部屋に残ったリーナの悲壮を纏った呟きに、ソフィアは少しだけ同情しながら、彼女の頭を静かに撫でるのだった。


――――――――――――


 翌日。

 二人は騎士の案内のもと、見知らぬ訓練場に足を運んでいた。


「すまない、少し遅れてしまった」


 案内してくれた騎士がその場から立ち去り、数分ほどした頃、ゴートが訓練場に現れた。


「何かあったのか?」

「あぁ、陛下達と今後について、少しだけ話していたのだ」

「今後?」

「もしかして『奈落』攻略についてか?」


 蒼衣の問いかけに、ゴートは首を縦に振る。


「次の『奈落』攻略は、人員を増やすことが決まったのだが、その人員をどう選出するかで話し合っていたのだ」

「へー、どうやって選出するかは、もう決まったのか?」

「あぁ、これを見てくれ」


 ゴートが懐から取り出した一枚の紙に、二人は目を通す。


「チーム対抗戦?」

「そうだ。複数人で一つのチームを組み、チーム同士で戦い、その結果でメンバーを選出することにしたのだ」

「なるほど」

「試合は、今から三週間後。お前達には、そこで優勝してもらう」


 ゴートの言葉に、二人は「当然だ」と答える。


「と言っても、天川達に隠れているだけで、ウチの同級生、それなりに強い奴ばっかなんだよな」

「その強い奴に圧勝できないようでは、紅竜の討伐など出来るわけがなかろう」

「だよな~、で、これから俺達はどんな訓練をするんだ?」


 蓮がそう尋ねると、ゴートは剣と杖を一本ずつ取り出す。


 剣を連に、杖を蒼衣に手渡したゴートは二人から距離を取る。


「今のお前達に足りないのは、技術と実戦における恐怖への耐性」


 そう言うと、ゴートは鞘から剣を抜き放つ。


「これから三週間、お前達にはひたすら私との実戦訓練を行い、それらを身につけてもらう」


 言葉と共に放たれる強烈な殺気に、二人は思わず、一歩後ずさる。


 その姿を見たゴートが目を細める。


「どうした? お前達も『あの者ら』と同じ、威勢だけの人間なのか?」

「「ッ! 違う!」」


 英司が一人勇敢に立ち向かう中、我先にと逃げた天川達ゴミと同じ人間だと言われた二人は、強く歯を食いしばり、否定する。


「誰が、あんな奴らと一緒だ! ふざけるな!」

「アイツらと同じって言われるぐらいなら、死んだ方がマシだ!」


 各々の得物を手に吠える二人に、ゴートは「及第点だ」と答え、武器を構える。


「見せてみろ、お前達の覚悟を」

「「上等だ!」」


 そして、その雄叫びを合図に、地獄の実戦訓練が始まった。

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