第6話
訓練が始まって、一週間ほど経った頃。
「これより、『奈落』攻略のメンバーを発表する」
いつもの訓練場に集まった生徒達の前で、ゴートはそう告げた。
(いくら何でも、早すぎじゃないか?)
(確かに、魔王討伐を一刻も早く成し遂げたいのは分かるが……)
(訓練を始めて、一週間しか経ってないのに……)
三人が心中でそう呟くも、周りにいる生徒たちは、この一週間の訓練で自信をつけたためか、やる気に満ち溢れている。
「まず、天川」
「はい!」
当然の如く、メンバーに選ばれた天川。他にも、希少な職業を持つ者、強力な真
銘魔法を持つ者の名が呼ばれていく。
「最後に、尾形」
「は、はい!」
そして、『聖騎士』という希少な職業を持つ英司もメンバーに選ばれた。
「以上のメンバーで、数日後、『奈落』の攻略に挑む。各員、準備を怠らないように」
そう言うと、ゴートは訓練場から去っていった。
残された生徒たちは、訓練に臨む者もいれば、部屋に戻り休息を取ろうとする者もいた。
英司たちも、訓練に臨もうとすると……
「尾形、少しいいか?」
天川が攻略メンバーを引き連れ、声をかけてきた。
「な、何?」
「いや、ちょっと忠告をしようと思ってね」
「忠告……?」
どういうことかと、英司は首を傾げる。
「おいおい、とぼけんなよ~?」
すると、天川の背後から一人の男子生徒、
「どうせ、お前みたいな陰キャは調子に乗って、活躍しようとしてるんだろ?」
「そ、そんなことはないよ!」
「はっ、口では何とでも言えるんだよ」
元々、三人を「オタク」やら「陰キャ」だと見下していた須藤。この世界に来てからも、その態度が変わることはなく、むしろ苛烈になっており、三人はうんざりしていた。
「須藤、言い過ぎだ」
「なんだよ、天川、お前も忠告に来たんだろうが」
「僕はただ、『勝手な行動をして、周りに迷惑をかけるな』ってことを言いたかっただけだよ」
(大して変わらねぇよ)
(むしろ、何の悪意もなく言ってる点を加味すると、お前の方がうぜぇよ)
(まぁ、天川君だから……)
三人の心中が『めんどくせぇ』で一致する中、天川達は、伝えることは以上だ、と言い、訓練場を去っていった。
「迷宮攻略が、より心配になったな」
「アイツらの方が絶対に調子に乗ってるし、勝手な行動を取るだろ」
「騎士団の人達も来てくれるから、大事にはならないだろうけど……」
悲観していてもしょうがない、と三人は気持ちを切り替え、訓練の準備を始めていった。
――――――――――――
数日後、選抜メンバーが『奈落』へと向かう日が訪れた。
「頑張れよ」
「もちろん、無茶をするのは厳禁だがな」
「うん! 僕は、僕にできることを精一杯やり遂げるよ」
周りの生徒と同じように、蓮と蒼衣は、英司に激励を送る。
そして、ある程度の挨拶を済ませた後、英司たちは騎士団の面々と共に王城を出発した。
「心配か?」
英司たちの姿が見えなくなった頃、国王の護衛のために残っているゴートが蓮と蒼衣に声をかけてきた。
「……えぇ、お世辞にも、俺達は同級生と仲が良かったとは言えませんので」
「それに訓練ではなく、実戦は初めてなので……」
「そうか」
そう言うと、ゴートは少しだけ破顔しながら、二人の頭に手を置く。
「そう思うなら、これからも頑張るんだな」
「ですね……」
「アイツが帰ってくるまでに、真銘魔法を使えるようになってみせますよ」
その後、二人はゴートから軽く真銘魔法に関するアドバイスをもらい、いつものように訓練に勤しんだ。
――――――――――――
そして、英司たちが『奈落』の攻略のために王城を出発し、一週間が経った頃。
それは、突然に訪れた。
「蓮、蒼衣、少しいいか?」
自主練をしていた二人に、この一週間で交流が深まったゴートが声をかけてきた。
「大丈夫ですけど……」
「何かあったのですか?」
「一先ず、私に付いてきてくれ」
普段よりも少しだけ険しい面持ちのゴートの後を、二人は静かに付いていく。
「着いたぞ」
訓練場から数分ほど歩いた頃、ゴートはとある部屋の扉を開き、二人に入るよう促す。
「ここは……」
「医務室、か?」
二人の視界に入るのは、以前いた世界でよく目にした保健室に似た部屋だった。
「ここは、魔法ではすぐに癒すことのできない傷を負った者を休ませるための場所で、まぁ、医務室という認識で間違っていない」
ゴートの案内に従いながら、辺りを見回すと、数日前、『奈落』の攻略のために王城を出発した騎士達が、至る所に包帯が巻かれた状態でベッドに横たわっていた。
「こいつらって、そうだよな?」
「あぁ、『奈落』攻略に行っていた奴らのはずだが……」
「それらの説明も、この先でしよう」
そう言うと、ゴートは医務室の中にある扉を開く。
二人が中に入ると、そこは先ほどよりも多くの薬品が所狭しに並べられた部屋だった。
本来であれば、多少は目を奪われるであろう光景だが、二人の視線は「ある一点」に集中していた。
「おい、どういうことだよ……」
「嘘だよ、な……?」
驚愕する二人の視線の先には、騎士達よりも体に多くの包帯を巻きつけた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます