第5話


 異世界に召喚された翌日、生徒達は、訓練場と思われる場所に赴いていた。


「初めまして、と言っていいのか分からないが、初めまして、異界の勇者殿」


 どこか覇気を感じさせる声で話すのは、王国騎士団団長、ゴート・ヴェイン。


「今日から、諸君らには訓練を行ってもらうのだが、その前に話しておくことがある」


 そう言うと、ゴートは傍に控えていた騎士に指示を出す。

 ゴートの指示に従い、騎士が手に持っていた拳大の水晶を掲げると、空中に映像が映し出される。


(あれは、門か?)

(迷宮とかじゃないか? 訓練の成果を確かめるためにあってもおかしくはないからな)

(凄く古そうだね)


 映像に映っていたのは、歴史を感じさせる巨大な門。

 生徒たちが視線を奪われる中、ゴートは説明を始める。


「まず最初に。このまま訓練をして、魔法を使えるようになったとしても、今の諸君らでは魔王を討伐することは出来ない」

『ッ!?』

「どういうことですか?」


 多くの生徒たちが驚いている中、天川はゴートを見つめながら問いかける。


「魔王は、あるスキルを持っており、そのスキルがある限り、魔王を討伐することができないのだ」

「あるスキル、ですか?」

「あぁ、そのスキル名は【反魔之世界アンチ・マジックワールド】と言い、あらゆる魔法攻撃を無効化できるのだ」

「ま、魔法の無効化!?」


 ゴートの言葉に、天川が驚愕の声を上げる。


「真銘魔法ですら無効化する【反魔之世界】がある限り、いかに諸君らでも魔王の討伐は不可能だ」

「な、なら、どうするんだよ!?」


 魔王の討伐は不可能だと言われ、天川の横にいた黒田が思わずゴートに詰め寄る。


「あくまで、今の諸君らでは、ということだ」


 そう言うと、ゴートは空中に映し出された巨大な門へ視線を向ける。


「ここに映し出されているのは世界最古の迷宮である『十大迷宮』が一つ、『奈落』と言う」

「えっと、迷宮、とは何でしょうか?」


(え、アイツ、迷宮を知らないの?)

(嘘だろ、漫画やアニメの定番なのに)

(知らない人も一定数いるとは思わないの……?)


 ファンタジーの定番、迷宮を知らないと言う天川に対し、蓮と蒼衣は「信じられない……!」と目を見開き、英司はそんな二人に、至極当然のツッコミをする。


「迷宮とは、世界各地に点在する魔物の住処で、多くの財宝が眠っていると言われている場所の事だ」

「この『奈落』も迷宮、なんですよね?」

「あぁ、諸君らには、この迷宮を攻略してもらう必要がある」


 なぜ、魔王討伐に迷宮攻略が必要なのだろうか、という生徒たちの心の疑問が聞こえたのか、ゴートは説明を続ける。


「『十大迷宮』の最奥には、とある宝が眠っている、と言われている」

「とある宝?」

「私も正式な呼称は知らないが、記録書にはこう書かれていた」


 ———【星女の剣せいじょのつるぎ】———と


「その【星女の剣】とは、何なのでしょうか?」

「私も詳しいことは説明できないが、その宝には、『スキルを無効化する』という能力が備わっているものがある、と言われているのだ」

「スキルの無効化、って……もしかして!?」


 天川だけでなく、周りの生徒達もゴートの言わんとしていることに気づく。


「そう、【星女の剣】は魔王を討伐するのに必須、そして、それを手に入れるには『十大迷宮』の最奥にまで行かなければならない」


 その言葉に、緊張が走る。


「さらに言うと、『スキルを無効化する』能力を持つ【星女の剣】が『奈落』にあるとは限らない」

「え、ど、どういうことですか?」

「【星女の剣】は全部で十本存在しており、一本一本に備わっている能力は記録に残っているが、どの『十大迷宮』に、どの剣が眠っているのかは分からないのだ」

「なるほど……」


 天川は口元に手を当て、告げられた内容を頭の中で整理する。


「その『スキルを無効化する』能力を持った【星女の剣】を手に入れるまでは、僕達は『十大迷宮』に挑む、ということですね?」

「そうだ」


 天川の問いかけに、ゴートは静かに首肯する。


「分かりました、僕達が『奈落』だけでなく、全ての『十大迷宮』を攻略し、必ずや【星女の剣】を手に入れて見せます!」


 THE・主人公の台詞を口にする天川と、それに続く生徒達の咆哮。


(うぜー)

(アイツの口、縫うこと出来ないか?)

(二人の気持ちは分かるけど、お願いだから、これ以上、喋らないで……)


 辛辣な言葉を紡ぐ二人に、英司は頭を抱えながら、大きなため息をつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る