第2話
ある程度の盛り上がりを見せた後、生徒たちは、巨大な水晶が中央に浮かぶ部屋に案内された。
「これより、皆様の能力を調べさせていただきます」
軽く咳払いをし、ローブを深くかぶった男性が、生徒達の前で説明を始める。
「ここにある石板に手をかざすと、中央に浮かぶ水晶にその方の能力、ステータスと呼ばれる物が表示されます」
例えば、このように、と言いながら、男性は手をかざす。すると、水晶が輝き、ゲームで見るような画面が生徒たちの前に現れる。
———
名前:ノード・エルニクス
力:E 防御:D 魔力:A 敏捷:C
職業:魔導士 魔法:炎、風 スキル:【魔導】
———
生徒達が、眼前に現れた驚愕するなか、男性、改め、ノードは説明を続ける。
「各項目の説明は後で行うとして、どなたか一人、この石板に手をかざしてくださいませんか?」
「俺でもいいか?」
ノードの言葉に、一人の男子生徒が手を挙げる。
(おっ、一軍メンバーの一人、
(俺、天川よりアイツのほうが好きだぞ)
(天川とは、また違ったカリスマみたいなものがあるんだよね)
三人が、先ほどとは比べ物にならない高評価を下す中、その申し出を受け入れたノードが前に出るように促す。
「どうぞ、こちらに手を」
「こうか?」
黒田が首を傾げながら、石板にかざすと、先ほどと同じように水晶にステータスが映しだされる。
———
名前:黒田 勇人
力:C 防御:C 魔力:D 敏捷:D
職業:拳闘士 魔法:土、無 スキル:【金剛】【重撃】
真銘魔法:【拳闘乱舞】
———
黒田のステータスが映しだされた瞬間、その場にいた騎士たちから歓声が上がる。
(基本能力が、初期値でここまで高いことも確かに凄いが……)
(それよりも気になるのは……)
(あの、真銘魔法、ってやつだね)
それに対し、三人はノードの欄にはなかった『真銘魔法』に目を向ける。
「真銘魔法、っていうのは何だ?」
「真銘魔法とはこの世界では限られた者にしか使えない魔法の極致で、その力は通常の魔法とは比べ物にならないと言われています」
ノードの説明に、生徒達は困惑の表情を浮かべる中、英司はなんとなく二人の方を見ると、わずかだが、厳しい表情をしていた。
(ふ、二人とも、そんな怖い顔をして、どうしたの?)
思わず、英司が問いかけるも、二人の表情は変わらず、厳しいまま。
今は追及しても答えてくれそうにない、と感じた英司はノードの方に視線を戻し、話の続きに耳を傾ける。
「この真銘魔法をもって、魔王討伐を成し遂げる。これが我々から皆様にお願いしたいことでございます」
「なるほどな。でも、俺達、魔法とかを使ったことなんてないんだが、大丈夫か?」
「ご安心を、皆様の能力を調べ終わった後、魔法の実戦訓練を用意していますので」
そう言い、他の生徒達にも石板に手をかざすよう促すノード。
一瞬、戸惑う姿勢を見せたが、一人、また一人と石板に手をかざしていく生徒達。水晶に能力が映し出されるたび、騎士達からは歓声が上がる。
「皆、盛り上がってるな」
「まぁ、魔法、っていう元の世界にはなかった力に惹かれているんだろうな」
周りが騒ぎ出したことで、普通の声量で話す、蓮と蒼衣。その顔に、先ほどまでの厳しさはなく、英司は胸を撫でおろす。
「おっ、次は、天川みたいだな」
「どうせ『ぼくがかんがえたさいきょう』みたいなステータスだろ」
「まぁ、多分、そうだよね……」
生徒だけでなく、騎士達からも注目されている天川は、そっと石板に手をかざす。
———
名前:天川 春樹
力:B 防御:B 魔力:A 敏捷:B
職業:勇者 魔法:炎、水、風、土、光、闇、無 スキル:【
真銘魔法:【
———
「こ、これは!?」
水晶に映ったステータスを見て、ノードや騎士達は目を見開く。
「無茶苦茶だな」
「真銘魔法も二つあるし、チートだな」
「流石だね」
三人は、分かっていたことだ、と思っている中、ノードは興奮しながら天川に詰め寄る。
「は、春樹殿! 凄いですよ! 勇者ですよ!」
「え、えっと、そんなに凄いことなのですか?」
「えぇ! 『勇者』とは、その名の通り、勇気ある者に送られる職業! 全属性魔法が使え、規格外の真銘魔法を使えるのです!」
「そうなんですね……」
ノードの説明を聞きながら、天川は自身のステータスを見つめる。
「王国に伝わる、希少な職業の中でも、初代国王以外持っていなかった『勇者』をこの目で見れる日が来るとは!」
「『勇者』がいるなら、魔王討伐も夢じゃないぞ!」
「流石だぜ、春樹!」
「凄い凄い!」
騎士も生徒も関係なく、この場にいる者が天川に賞賛の声を送る。
「皆……!」
その声に、天川は拳を突き上げ、瞳に炎を宿す。
「僕達の手で、魔王討伐を成し遂げよう!」
『オー!』
天川の声に、多くの生徒が続き、拳を突き上げる。
「お気楽だな」
「まだ、分かっていないだけだろ」
「え、え、何の話?」
熱狂する天川たちに対し、蓮と蒼衣の顔は再び厳しいものになる。言葉の意味が分からない英司は二人に問いかけるが、二人は「あとでな」と答えるのみ。
「まぁ、俺達もそろそろ並ぶか」
「どうせ、この世界の人より、少し強いだけだろうしな」
「二人だったら、意外と希少な職業だったりするんじゃない?」
「「ないない」」
こいつ馬鹿なの?という顔で答える二人に、英司は怒りながらも、それが冗談の類だと分かっているので、すぐに落ち着きを取り戻す。
その後も、『剣聖』や『聖女』といった希少な職業を持つ者が現れ、その度に現地の人間から歓声が上がる。
「希少な職業は、当然の如く一軍の奴らが持っていたな~」
「俺は『魔導士』だったけど、蓮は?」
「俺は『剣士』だったぞ」
「なら、とりあえず一安心だな」
「いや、まだ英司が残っているぞ」
蓮はそう言い、石板に手をかざす英司の方を指す。水晶に英司のステータスが映しだされた瞬間、ノードが何度目かの興奮の声を上げた。
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