Over World Quest

苔虫

第1話


「簡潔に今の状況を説明すると?」

「多分だけど、異世界に召喚されたみたいだね」

「異世界召喚は、創作だけだと思っていたんだがな」


 目の前に広がる光景を前に、制服を身に纏った三人の少年は、現在の状況を冷静に分析する。


「どこだよ、ここ!?」

「私達、さっきまで教室にいたよね!?」


 周りには、彼らと同じ制服を身に纏った少年少女が狼狽の声をあげている。


「周りの奴らは流石に動揺しているな」

「まぁ、流石に仕方ないと思うよ。普通は、あっちの方が正しい反応だろうね」

英司えいじの言う通りだな。こんな非現実な光景、素直に受け止めるほうがおかしいな」

「なんだよ、蒼衣あおい。その言い方だと、まるで俺達の頭がおかしいみたいじゃないか」

「実際、そうだろうが、れん


 笑いながら、冗談めいた口調で話していると、部屋の奥から、一目でわかるほど煌びやかな装飾品を身につけた一人の男性が現れ、彼らの前で立ち止まる。


「よくぞいらっしゃった、異界の勇者様。私の名前は、バイゼル・フォン・サンダリオン。この『サンダリオン王国』の国王である」


 部屋に響き渡る威厳のある声に、先ほどまでざわめきを見せていた生徒たちの間には静寂が訪れる。


「まずは、身勝手に君達をこの世界に連れてきてしまったことを、謝罪させてくれ」

『ッ!』


 そう言い、頭を下げるバイゼル。その姿に、彼ら三人と、後ろに控えていた騎士達が目を見張る。


(おいおい、一国の王が素直に頭を下げるとか、絶対裏があるだろ)

(まぁ、大方、先に謝罪をすることで『お願い』を聞いてもらいやすくすることが狙いだろうな)

(二人とも、疑い過ぎだよ……)


 仮にも国王であるバイゼルに対し、容赦なく疑いをかける二人に、英司が思わずため息をつく。


「その上で、どうか私の、いや、私達の願いを聞いてほしい」

(ほら見ろ、言ったとおりだ)

(絶対腹黒だろ、アイツ)

(二人は、そろそろ黙れ!)


 小声だが、声を荒げる英司に、二人は「悪い悪い」と言う。


「すみません、確認したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 すると、生徒達の中心にいた、一人の少年が声を発した。


「あぁ、勿論だが、其方の名は?」

「僕は、天川あまかわ 春樹はるきと言います」

「春樹殿か、して、確認したいこととは何だろうか?」

「先ほど、貴方は僕達を『異界の勇者』と呼びました。つまり、ここは僕達の知る世界ではないという事でしょうか?」

「その通りだ」


 天川、と名乗った少年は、国王であるバイゼルに対し、毅然とした態度で言葉を交わす。その姿に生徒達だけでなく、騎士達も尊敬の眼差しを送る。


(うわー、一軍様が仕切ってるー)

(テンプレ過ぎて心配になるー)

(もうツッコミを入れる気力さえ残ってないよ……)


 言いたい放題の二人に、英司が肩を落とす中、天川とバイゼルによる会話が続く。


「つまり、貴方たちの願いというのは、人類の敵である魔王を僕達に討伐してほしいということでしょうか?」

「あぁ」

「僕達であれば、魔王を討伐できるのですか?」

「そうだ、異界の住人である其方達には、この世界で生きる者よりも遥かに強力な力を持つ、と言われている」


 故に、どうか頼む、世界を救う力を私達に貸してほしい。そう言い、再び頭を下げるバイゼル。

 その姿に、正義感の強い天川は力強く答える。


「……分かりました、この世界の人々が苦しんでいるというならば、僕は戦います!」

(うわっ! アイツ、テンプレの台詞を言ったぞ!)

(バットエンド直行、間違いなし)

(……それは否定しない、というかできない)


 遂には全員がふざけだした三人を置き去りに、周りの生徒達は盛り上がりを見せる。


「春樹だけじゃ不安だからな、俺も行くぜ!」

「わ、私も頑張るよ!」


 学年の一軍を筆頭に、多くの生徒が天川に呼応する。


「皆、ありがとう! 僕達の力で、世界を救おう!」

『オー!』

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