黒き者

りるる は叔母と一緒になり

これからの住居となる部屋の整理をしていた。


りるる は部屋の中で旅の友である

キャリーバッグを開いた

その中ではキラキラと輝く魔法陣の六芒星が二重に赤や青にと明滅を繰り返し、そしてグルグルと円を描き回っていた。


叔母はそれをみて


「ほっ!、相変わらず大した物だわ」


と、目を丸くしながら感嘆の声でそう言った

実は りるる の家系にはこの叔母も含め、けもの族に族する人間は、りるる を除いては誰ひとりとおらず。

更には、古くからの騎士の家系であるが故に魔術に長けた者も、りるる の他には誰も居なかった。


この国の外では、けもの族や人間、魔族などが激しい争いを繰り広げている地域も少なからず存在し、今尚その戦火は消える気配を見せては居なかった。

そんな戦乱の時代の中で、この街フランソワーズの存在は稀だった。

異なる民族同士が仲良く暮らし日常を謳歌しながら、街を国を動かしている。

そうこのフランソワーズは様々な種族の人々にとっての理想郷であった。


故に、りるる の父はその養女 りるる がけもの族の人間である事をずっと隠させて来ていた。

また、彼女が自由に魔術を使えると言うその事も。


りるるの父ブレイディは妻と実の子をけもの族との戦いの最中に失っていた。

それ故にけもの族に対する憎悪や差別意識は人一倍に強かった。


が、そんな男でも戦場の中で見付けた赤子には手を掛けられなかった。

そして、そのけもの族の赤子 りるる を我が子として育てた。

けもの族では無く飽くまでも 人 として。


だが、叔母にとっては りるる は りるる であり何者かは関係が無かった。

愛する姪っ子 りるる

それで良かった。


りるる はバッグの中を呆れ顔で見ている

叔母へ悪戯っぽく笑みを返すと


「さぁ、箱の中の者達よ。今、我の称えたる解放の言に従いて、我の命ずる場所へ誘われ給えよ」


と呪文を唱えた。


すると、見開いたバッグの中で瞬いていた魔法陣の輝きが更に強く輝いたかと思うと、次には、それは個々に輝く光となってバッグの中から飛び出し、部屋の四方へと弾け、そして延びて行った。


それを目の当たりにした叔母が


「アレま!」


と驚嘆の声を上げている間に

部屋の様々な場所へと飛び散って行った光は

タンスや机に布団の敷かれているベッドやカーテンへと姿を変えて、それぞれが りるる の思う所定の位置へと配置された。

まるで最初からそこに有る事が当たり前の様な姿で


そんな物を目の当たりにすれば誰であってもそうする様に、りるる の叔母も驚きを露わにして


「魔法って凄いのね……」


とその思いを声に出していた。


その叔母の反応にりるるはクスクスと笑いながら


「ねっ?、凄いでしょ?」


とお茶目誤記して見せてみた。


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その頃


街はすっかりと夜の闇に包まれ

静けさと

星明かりだけがそこを支配していた。


その闇に覆われた街の中に

街のシンボルタワーである風車塔が

黒き巨人の如くそびえ立っていた。


その塔にある三角屋根の上に座り込む人の様な影が蠢(うご)めいていた。


その人の形をした者の元へ小さな四角い物の影がまるで吸い寄せられる様に飛び込んで行った。

その黒き者はそれを手にすると嘲る様にクックッと小さく笑うと徐に立ち上り、手の中に有る物をクシャクシャと握り潰すと

もう用済みだとばかりに投げ捨てた。


丸く玉の様になったソレは弱々しく虹の様な光を放ちながら蝶々の様にその姿を変た。


ソレは紛れも無く りるる が地図を魔法の力で変えた、あの道先案内人であった。


息も絶え絶えに飛ぶソレを見た黒き者は

その姿に苛立ちを覚えたのか


「目障りだ消えろ!」


怒りを露わに叫ぶと

その手を蝶々へと向けた

すると黒き者の掌から一筋の炎が

弱々しく羽ばたく蝶へ向かって伸び

蝶々をその炎で包み燃やし

蝶々は火球に包まれながらそのまま塔の下へと落ちて行った。


ソレを見定めると黒き者は背中にはコウモリのそれに良く似た形の羽根が生え

そしてお尻にはネズミの様に細く長い尻尾を生やし持っていた。


黒き者


その正体は魔族であった


魔族は固定した性別を持たない


いつでも男女とその性別を変え使い分けらると言う特性を持っていた。


その魔族は今は男の姿をしていた


彼は風車塔から街を見下ろしながら


「まさか、こんな所へ居るとはな。」


苦笑混じりに粒やき

そして


「我が主の器たる者セラフィム」


と天使の名をその言に交えて言い捨てた。


それを知らずに街にはただただ静けさと闇の中にひっそりと佇みそして広がっていた。

























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