第21話

 各寮のお風呂に使われている水というのは、どうやら山の方にある『魔力の泉』から水を引いてきているらしいんだ。


 寮の中で山に一番近いのは、ルージュ寮。

 だから、まず最初に魔力の泉の水がやってくるのは、ルージュ寮だ。


 ルージュ寮では、泉の水を一度溜めて、それを沸かす作業も行っているらしい。

 そこで沸かされた湯を、各寮へと提供する仕組みだ。

 何となく、遠くに源泉を持つ温泉みたいなシステムに似ている。



 だからこそ、ルージュ寮の人たちが、水の供給が少なくなったことにいち早く気が付いたようだった。


 学校で騒ぎがあったから、僕はルージュ寮へと来ていた。

 ルージュ寮の裏手に回ると、山間部への入口がある。

 その山を望むようにして、大きな貯水タンクのようなものがあった。

 そこで、数人が集まって議論しているようだった。

 おそらく、二年生だろう。

 寮のローブの色は同じでも、付いているワッペンが違う。


 オランが説明してくれる。

「あのタンクに魔力の泉の水を溜めているんだ。そして、ここから各寮へと供給をしているんだ」


 全校生徒は、確か千人はいたはずだし。

 その人数が風呂に入るとなると、このくらいの大きさは必要なのかもしれない。


 大きい貯水タンクからは、太いパイプが繋がっている。

 その太いパイプは、山の方へと延びている。


 この先の方に、水が来なくなった原因があるんだろうな。

 途中でパイプが壊れてたりするのかもしれない。

 もしくは、元の泉が枯れているのかもしれないが……。


「源泉まで、このパイプを追っていくのは中々骨が折れるな。どうしたものかな……」


 僕としては、魔力の泉の源が分かれば嬉しい限りだけれども。

 だから、源泉まで点検していくのもやぶさかでは無い。

 それがバレてしまうと、ちょっとまずい気もするから、それとなく提案してみようかな。


 貯水タンクの前で議論している二年生たちに向かって、言ってみる。


「もしよければ、僕も手伝いましょうか?」

「なんと、それは頼もしい!」


 ルージュ寮の二年生からは、二つ返事で了解を貰ってしまった。


 まぁ。ルージュ寮にも恩を売っておくと、今後良いかもしれないし。

 一石二鳥っていうやつかもだね。



 ルージュ寮のみんなは、僕のことを羨望のまなざしで見てきた。


「君知っているよ。今年ただ一人、ノワール寮に入ったやつだろ? すごい魔法も使えて、それでいて、人も良いときた。君はホントすごい奴だな!」

「はい、そんなことないですけれども。ありがとうございます」


「風呂が元に戻ったら、一緒に入ろうな!」

「え……、あ、はい。そうですね……」


 別にお風呂が嫌いってわけじゃないんだけれども。

 この世界、風呂に誘う男の子が多すぎるでしょ……。

 学年を超えても誘ってくるんだな。

 注意しないと……。


 いや、僕だってお風呂に一緒に入って、人の身体を見たくないわけじゃないんだ。

 って言うと、なにか大きな誤解が発生しそうだけれども……。


「お風呂なしなんて耐えられないから、早々に向かってしまおう」


 先輩たちがそう言っていると、何やら大きなロープウェイの客車部分のような乗り物が何台もルージュ寮の前に到着した。

 中からは、緑色のローブを着たヴェール寮の生徒と、青色のローブを着たアズール寮の生徒が出て来た。


「お風呂のこととあれば、我々も手伝います」


 そう言うと、各寮の生徒たちは熱い握手を交わしていた。

 みんなお風呂のこと好きすぎるでしょ……。

 そうツッコまずにはいられなかった。


「よし、乗り物も来たことだし、それじゃあ、行こうぜ!」


 僕とオランは、ロープウェイの客車部分へと乗り込んだ。

 この客車の中にいたのは、アズール寮のリラと、ヴェール寮のゲルプだった。

 両方ともに、数少ない僕の友達。


「こんなところで会えるなんて、奇遇だね。しばしの間、一緒のパーティとして頑張ろう!」


 僕は皆と熱い握手を交わした。

 このパーティは良いかもな。


 ちょっとやる気が出て来たぞ。

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