第19話

「君、今さっきの戦闘で相当汚れちゃったみたいだね。まずは、お風呂にでも入ろうか」

「あれ……? 汚れてますか。お気遣いありがとうございます。……って、いきなりお風呂ですか?」


 ここの生徒たちは、妙にお風呂が好きだな。

 ……まぁいいけれども。


 寮制度がある学園。

 人の家に入るときって、その家のルールに従えってことだと思う。


 前世でもそうだったし。


「それでは、入らせてもらいます」

「ああ。自慢の風呂だから、楽しんでくるといい」



 ヴェール寮は、平野が見えるところにある。

 その平野を臨むようにして露天風呂が作られていた。

 これは、なかなかいいな。

 開放感がすごい。


「ここっていいでしょ? 僕も初めて来たときに、すごい開放感で気持ちいいな一って思ったんだ」


 ゲルプが話しかけてきた。

 この子も先ほどの戦闘で汚れてしまったからと、浴場へ来ていた。

 僕は、かけ湯をして露天風呂へと入っていく。

 この風呂も、程よい良い温度だ。

 気持ちが良い。


 一方でゲルプは露天風呂には入らずに、大草原の方向を向いている。


「この開放感が良いよね!」


 ゲルプは真っ裸で大股開き、身体全体で大草原を感じているといった雰囲気をしている。

 草原の方に誰もいないからいいけれども、かなりレベルの高い変態っていう感じだな……。

 大自然に向けて露出するっていう……。


 僕が裸に敏感なだけなのかな……?


「君も、こっちに来て一緒に自然を感じようよ!」

「え、あ、うん」


 ゲルプは振り向いて、こちらを見てくる。

 逆光になっていて、あまり見えないからよいけれども。

 ちょっとは、気にして欲しいところもあるな。


「ほらほら!」


 僕の方まで走ってくると、手を取ってきた。

 ゲルプの股間がちらりと見えるが、やはり先輩の方が大きいな。

 これであれば、メデューサとまではいかないな。


 ゲルプは、せっかくできた友達候補。

 僕が一人きりの寮だから、せめていろんなところに友達は作っておきたい。

 卒業後に冒険パーティを組むとしたら、こういう友達の中から決められると心強いもんね。


「ほら、いい感じでしょ!」


 両手を広げて、股を広げて。

 そんな、大自然を感じるポーズを強要されている気がする。


 まぁ。遠慮してても友達にはなれないだろう。

 そういうのも、たまにはいいのかな。


 僕もゲルプと同じく、股を広げて手を広げて大自然を感じる。


「これは、良い感じだね」


 嘘でもなく、本当にこれもいいのかもしれない。



「……君は、すごい開放的なんだな」


 聞いたことある声がしたと思ったら、ヴェール寮の寮長が歩いてきた。


「あれ? ここって、入り口は後ろにあって……。草原から出入りができるなんて聞いてないんですが……」


 ゲルプは股を閉じて、一度お辞儀をして言う。


「寮長、お疲れ様です! やっぱり先輩の魔法は最高でしたよ!」

「ありがとう。君も、そのうちできるようにしような」


 楽しそうに笑う寮長。

 ここの寮も雰囲気が良さそうだ。


「そう、僕が教えてあげたことを君も実践しているようだしね」


 うん……?

 教えたことをやっていた……?


「魔法にはイメージが大事だから、大自然と一体になって、感じることが大事だ」


 寮長はそう言うと、股間に巻いていたタオルを取り、それを首に巻いた。

 ここの生徒は、露出癖が強いのか。

 すぐ裸になりたがる。


 そして、その裸を見てしまう僕もいる。

 寮長の股間の方は、とても大自然でした。


「ははは! どうだ! これで大自然を感じられるぞ、はははは!」

「そうですね、寮長! 僕も頑張ります! はははは!」


 ゲルプも、寮長も。

 おとなしそうな人だと思っていたのに。


 ヴェール寮とは、なかなかに天然な子が多いのかもしれない……。


「君も、俺の強さの秘密が知りたかっただろ? これが秘密だぞ!」


 股を大きく開いた体制で、こちらを向いて言ってくる。

 そんなに股間を見せられても……。

『俺の秘密はこれだ』といわれましても……。


「ほらほら、ちゃんと見ろ! 大自然が広がっているだろ!」

「あ、はい……。。とてもとても……。大自然が広がっています……」


 僕は、こんな人よりも劣っているのかと、一瞬情けなく思ってしまう。


 そうは言っても、これが本当に強さの秘密なのかもしれない。

 自然を味方につけるか……。


「君も、一緒にやってみるといいぞ? 気持ちいいぞ!」


 ……はぁ。

 ……もう、どうにでもなれだな。


「僕もやってみますね。はははは!」


 大自然に向かって、三人で大の字になって全てをさらけ出した。


「「「はははははは!」」」

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