第14話

 ――ガシャンッ!


 ハイ・ゴブリンを凍り付かせた氷柱が、一振りで壊された。


 激しい音と共に、氷柱が砕け飛ぶ。

 氷の破片が、こちらまで飛んできた。


 凍りついているハイ・ゴブリンの頭部が、僕の足下に転がってくる。


 僕の魔法が、一振で粉々になるなんて……。



 氷柱を壊した主が確認できた。

 先ほどのハイ・ゴブリンよりもさらに一回り大きいゴブリンだ。


 大きさで言えば、トロールに迫る大きさだろう。

 何やら兜みたいなものも被っており、見た目だけでも強者の出で立ちだ。


 副寮長が口を開いた。


「あれは、ジェネラルゴブリンだ……。どうして、こんなところに……」


 ジェネラルゴブリン。

 僕も名前はテレビ番組で聞いた事があるぞ。

 災害級なモンスターで、姿を現しただけで、緊急避難警報が出るくらいだ。


 あのモンスターは不味いな……。

 僕の魔法が一瞬で粉々にされてしまうのだから……。


 けど、僕にはどうするすべもない。

 一度でダメなら、何回だってやってやる。


「アイス・レイル!」


 僕の氷魔法が地を這ってジェネラルゴブリンの元へと迫る。

 しかし、ジェネラルゴブリンは地面を叩いて魔法を無効化させた。


 トロールの時と同じ方法だ……。

 くそっ……。


「アイス・レイル! アイス・レイル!」


 再度唱えても、ジェネラルゴブリンはすぐに魔法を無効化してしまう。


 くっ……。どうすればいいんだ……。


 ――ギギーー!!



 今度はあちらの攻撃ターンということか。

 鬼の形相でこちらに迫ってくる。


 どうしようもない。くそ……。



 瞬きをする間にも距離を詰めてくるジェネラルゴブリン。

 防御魔法も間に合わない……。



 その時、後ろから聞きなれない声が聞こえて来た。


「君、筋は良いけど、まだまだだね。こういう時は、もっと素早く。一瞬で凍らせていくんだ」

「……え?」


 声のする方向を振り向こうとする間もなく、周りが凍り付いていった。

 どういうことだ、こんな一瞬の間に……。


「君の場合は、凍り付くまで時間がかかるから、打ち消されてしまう。もう少し瞬間的に凍らせるイメージをもつといい」


 目の前のジェネラルゴブリンは、攻撃の姿勢のまま凍っていた。

 今にも動き出しそうな迫力を残しているのだが、そのまま動かない。


 もう目を離しても大丈夫かと思い、後ろを振り向いた。

 そこに立っていたのは、アズール寮の寮長だ。


「よく逃げずに戦ったね」


 そう言って、僕の頭を優しく撫でてくれた。

 温和な表情を見せてくれる。


 なんて優しそうな人なんだろう……。

 見つめていると、不穏な音が聞こえてくる。



 ――ピキピキ……。


 ジェネラルゴブリンだ……。

 氷漬けにされたというのに、動こうとしている。



 その反応を見ると、寮長の顔はすぐに厳しい顔に切り替わった。


「副寮長、守りを頼んだぞ!」


 寮長がそう言うと、あたりが一気に冷えてきた。

 まだ魔法を唱えていないというのに。

 寮長が杖に魔力を込めただけなのに……。


 すぐに魔法は唱えられた。


「アイス・レイル」


 魔法が唱えられると、一瞬で氷の柱が出来上がっていた。

 僕の魔法と同じはずなのに、全然違う。


 氷の柱が出来上がると、こちら側へ冷気が吹いてきた。


「これで完成だよ」


 凍らせるまでの時間が全然違う。

 辺りは透き通った氷に包まれていた。


「不純物のない氷は、透明なんだ。瞬時に凍らせることができれば、こんな風に透明になる」


 ピカピカに磨かれた硝子ケースのよう。

 ジェネラルゴブリンが臨場感たっぷりの姿で凍っているため、ちょうどフィギュアを飾るようなショーケースを連想させる。


「寮長、ジェネラルゴブリンは、このまま凍結させておきますか」

「そうだね。後のことは、先生たちに任せよう」


 寮長は、また温和な顔に戻っていた。


「それで、君か。僕の寮生を助けてくれたことに感謝するよ」

「い、いえ。僕は何にもできていませんでした……」


 寮長は微笑んで答えてくれた。


「ふふ、君は謙虚だな」


 そして、僕の頭をぽんぽんと撫でる。


「君はよくやったよ。そのお礼として、君も僕の寮に来たら、こういった魔法を教えてあげるよ」


 ……魔法を教えてくれる。

 願ってもないチャンスだ。

 こういうチャンスなんて、いつ降ってくるかわからないから、これは逃しちゃいけないな。


「こんな魔法、僕も使えるようになりたいです!」


 僕がそう言うと、寮長はうんうんと頷いた。


「まぁ、まずは氷でビシャビシャになっちゃったから、うちの寮の大浴場にでも入っていくといいよ。裸の付き合いっていうのも、悪くないと思うよ」


「……は、はい! 行きます!」

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