第15話

 ジェネラルゴブリンは、可動式フィギュアのように凍りついている。

 今にも動き出しそうな威圧感がある。


「それじゃあ、先生たちが来るまで見張りをたのんだよ、副寮長?」

「はい! 任せてください!」


 副寮長は、気合いの入った返事をする。

 それに満足したのか、寮長は微笑みながらこちらを振り向いた。


「それじゃあ、行こうか」



 寮長がそう言うと、いきなり身体が宙に浮いた。

 僕が驚いていると、ゲルプが教えてくれた。


「寮長は、氷の防御魔法が得意なんだけれども、風魔法とかも使えるんだぜ。すごいだろ!」

「ふふ。その通りだけれど。君がいばることじゃないぞ?」


 寮長は、優しくゲルプのことを注意をした。


 やっぱり、寮長ってすごいなぁ。

 尊敬してしまうな……。


 僕たちは、寮長の魔法で一気にアズール寮長まで飛んでいった。



 ◇



 アズール寮。

 海が見える南西側にある寮だ。


 海を臨む寮。

 どこか、中世のお城のような雰囲気さえ感じる。

 そこにたどり着くと、風魔法は解除された。


「見張りは副寮長に任せてあるから安心だろう。早速お風呂にでも入ろう」

「は、はい!」


 やっぱり、外から帰ったら、まずはお風呂なのかな。

 この世界の文化は、どうもそうらしい。


 寮の中へ入るとすぐにある階段を降りていく。

 階段を降りた地下には、大浴場が広がっていた。


 浴場への敷居も無いような所で、いきなりみんな服を脱ぎ出す。


「え、えぇっと……?」


 戸惑っていると、友達が声をかけてくる。


「ほらほら、君も風呂に入るぞ!」

「あ、う、うん。お風呂に入りに来たけれども、こんないきなり……」


 そうしゃべってる間に、友達は大きな浴槽へと走り出していた。

 夏休みにプールに来た小学生みたいな。

 そんなにお風呂が好きなのかな……。


 僕もすぐに服を脱ぐと、浴槽へと急ぐ。

 銭湯だったりすると、先に身体を洗わないといけないかもしれないが。

 本当は身体には良くないと聞いたことがある。

 彼らは、それが分かっているのかもしれない。



 僕も、掛け湯だけして、浴槽へと入る。


 温度は丁度いい。

 湯に浸かるだけで、一気に力が抜けていくのが分かる。



 お風呂って、こんなに気持ちいいんだ……。

 昨日は、先輩に無理やりお風呂に入れられたからなぁ……。


 なんだか緊張して、全然疲れなんて取れなかったけれども。

 それに比べて、ここはとても気持ちいい。


「ここの浴場っていいだろ!」


 満面の笑みで言ってくる。

 僕も、笑顔で返事を返す。


「そうだね。ここすごくいいね」

「はは! やっぱりな!」


 そう言って、浴槽の端の方へ泳いで行ってしまった。


 この大浴場。

 25メートルプールよりも広いんじゃないかという広さ。

 こんなお湯、どうやって工面しているんだろう。


 そんな疑問も湧いてくる。

 魔法の力なのかな。



 こんなすごい魔法があるとすれば、もしかすると、ここも寮長の魔法で制御されているのかもしれない。



 うちの寮長もだけど。


 アズール寮長。

 先生に連絡を取っていたりしたのだろうか。

 みんなからは遅れて地下に降りてきた。


 あの寮長の強さの秘密がわからない……。


 このチャンスに、どうにか強さの秘密を知れればよいな……。

 あの身体のどこにそんな力が……。


「どうしたんだよ、寮長をそんなに見つめて?」


 寮長は、引き締まった身体をしている。

 先輩と同じく、細身なのに。


 意外と筋力もありそうな腕をしている。

 無駄が無いといった感じで、引き締まってる。


 身体が大きければ魔力があるわけではないけれども、魔法を使うにも体力を使う。

 そう考えると、どこにあんな魔力があるんだろう。


「うーん」

「まぁ、あの身体が気になるのはわかる」


「……え、あ? 僕はそういうわけじゃ……」


 僕の視線に気づいたのか、寮長が近づいてきた。


「ずっと僕の事をじろじろと見て、どうしたんだい?」

「あ……。いえ、良い身体だなと思いまして……」


 魔法の秘密を探っていたなんて知られたら、まずいから。

 咄嗟に思ったことを言ってしまった。


「ふふ。ありがとう」


 寮長は、すんなりと受け入れてくれた。

 寮長の優しい笑顔が眩しい。


 ゆっくりと歩いて湯に入り、僕の隣へときた。


「今日は、泊まっていくか?」

「い、いや、その……」


「俺の秘密を探るのには、ちょうど良いかもしれないよ?」


 やばっ……。

 バレている……。


「いやいや、そんなこと……」



 寮長が、僕に迫って来ようとすると、入口の方から声がした。


「あーー! ずるいですよ! 俺もまだ数回しかお呼ばれしたことないですよ」


 ジェネラルゴブリンの見張りという大役を終えたのか、副寮長が大浴場へと入ってきた。

 副寮長も、良い体をしている。

 どちらかというと、ガタイの良いタイプだ。


 身体を見せつけながら、近づいてくる。

 力強さがあるけれども、魔力っていう意味だと、寮長の方があるんだよな。


 副寮長は寮長の隣へ座り、寮長に注意をしている。


「先輩、そうやって、新入生を誘惑するのは止めてくださいよ? 色々と嫉妬する寮生だって出てくるんですからね!」

「ああ、そうなのか。すまんすまん。じゃあ、今日は、お前が来るか?」


 副寮長は、驚いたように立ち上がった。


「はいっ! お呼びいただけるなら、もちろん行きます!」



 副寮長が立ち上がったことで、僕の眼前に副寮長のお尻が現れる。


 いや、ちょっと……。

 これは、止めて欲しい……。



「こんなやつよりも、やっぱり俺が先ですよね!」


 いや……、ちらちらとこっちを振り返らないで欲しい……。


 副寮長のおしりと股間が、僕の目の前で行ったり来たりしている。


「はは。君の動きで、後ろにいる新入生が困ってるじゃないか?」

「なんですって? 君は、もしかして、寮長よりも僕の方に興味があったりするのか?」


 もう完全に僕の方を向いて、股間を見せつけてくる。

 意図していないとは思うのだけども。

 せっかく見るなら、やっぱり寮長の方がいいな……。


「いや、無いです……。僕は寮長の方が……」

「ダメだ! 寮長は、渡さないぞ!」


 そう言って、副寮長は寮長の腕を取って立たせた。

 寮長の股間も、僕の眼前に現れる。


 寮長は笑って、言ってくる。


「はは、僕の方が良いなんて、ありがとう!」


「「ははははー」」


 お風呂に入っている、みんなが楽しそうに笑っていた。


 アズール寮は、なんだか楽しい寮ということは分かった。

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