第13話

 ゴブリンの群れが走って、アズール寮の生徒たちに攻撃を仕掛けてくる。


「アイス・ウォール!」


 一年生たちは、ゴブリンの走ってくる道に、氷の障壁を作り出す。

 ゴブリンはそれにぶつかって、前へ進めないようであった。

 魔法の展開スピードは良いと思うけれども、あれじゃあ氷が薄いな。


 ゴブリンは持っていた棍棒を大きく振り回すと、氷の障壁を割った。


 ――ギギッ。


「アイス・ウォール!」


 唱えられた魔法によって、再度氷の障壁が作られたが、先ほどよりも薄い。

 一年生たち、魔力量が少なくなってきているぞ。

 大丈夫なのか……?


 あれだけしか魔法を使っていないのに、今にも倒れそうな生徒もいる。

 バディの先輩が、加勢に入ろうと杖を振りぬこうとすると、一年生は制止させた。


「はぁはぁ……。先輩、俺もう少しやれます……」


 先輩は、悩んだ顔をしていた。

 その光景を見ていた副寮長が話に入ってきた。


「そうだな。魔力は限界まで使い込むことで、己の限界値を上げることができる。やれるだけやってみるんだ」


 確かに、理にかなっていそうだ。

 筋トレで追い込むのと一緒だな。

 一人だけじゃ不安だけれども、補助の先輩がいるなら大丈夫か……。


 ――パリンッ。

 ――パリンッ。


 けど、あちらこちらで氷の障壁が割られて行っていた。

 生徒の数に対して、ゴブリンが多い気がするな。

 ゴブリンといえど、さすがに一年生が作るアイス・シールドじゃあ、心許ないだろうな……。


 ――パリンッ。


 また、割られた。

 段々と障壁が割られる速度が速くなっている。


 そして、ゴブリンたちは段々とアズール寮の生徒たちに近づいてきている。


 どうやら、一人に一人先輩がつけられているわけじゃないようだ。

 大体三人に一人先輩がついている。


 既に、ほぼ全員薄い障壁しか作れなくなっているぞ。

 これは、あきらかに手が回っていないんだと思う。


 そう思っていると、ゴブリンが一人の生徒の手前まで差し迫っていた。

 よくよく見ると、ゲルプの姿が見える。


 友達呼んでよいのか。

 初めて僕と打ち解けてくれた人だ。


 ……これは、助けないと。


 僕は、自分で考えるよりも早く魔法を出していた。

 ゲルプの前にいたゴブリンを凍らせる。


「……ふぅ。間に合った」

「……はぁはぁ。……あれ? ゴブリンが凍ってる」


 魔法を使ってしまった手前、ゲルプの前に出ていく。


「ガードはアズール寮の基本らしいけど。練習って言っても、単純にやりすぎっていうのも良くないと思うよ」

「あれ?……ヴァイス君だ。ありがとう……」


 ゲルプは相当疲れてしまっているように見えた。



「君は……。ノワール寮のヴァイス君!」


 副寮長にも見つかってしまったらしい。


「うちの寮生を助けてくれて、ありがとう」

「いえ、友達なので当たり前のことをしたまでです」


 そう答えると、副寮長は優しく微笑んだ。


「そうだな。中々、君は見る目がありそうだ。どうだい? 君も、訓練していくかい? というよりか、人手が足りなそうなだら、見ていてもらえるとありがたい」

「いや、そう言っていただけるなら……」


 僕が了解しようとすると、別の先輩から声が飛んできた。


「副寮長、大変です。前方からハイ・ゴブリンが来ます」

「なんだって!」


 ハイ・ゴブリンといわれて、一目でわかる。

 一匹だけ、明らかに他のゴブリンよりも、大きい個体がいる。

 一回りも二回りも大きい。


 ゴブリンは、小さな子供くらいの大きさなのに対して、ハイ・ゴブリンの大きさは、ニメートルを超えている。

 筋肉の付き具合も、他のゴブリンとは比べものにならない。

 この状況は、まずいな……。


 ――ギギッ。


 ハイ・ゴブリンの声が聞こえたかと思ったら、一瞬で生徒のところまで移動した。

 速すぎて、目で追うのがやっとだ。


 ――ギギッ。


「アイス・ウォール!」


 ゲルプは氷の障壁を出すが、もうさほど魔力も残っていないのだろう。

 薄すぎる氷の壁が現れた。


 ハイ・ゴブリンは障壁もろとも、こちらに攻撃をしようとしている。

 こうするしかないか……。


「エアロッ!」


 僕はとっさに魔法を唱えた。

 ハイ・ゴブリンが攻撃する瞬間、周りの生徒を後ろへ飛ばした。


 ――ギギッ。



 今の一発をもろに食らっていれば、一溜りもなかった。


「すまない。寮生達を助けてくれて、ありがとう」


 副寮長が僕をほめてくれるが、そんな余裕は無さそうだ。


「副寮長、悠長に話している暇はなさそうですよ」

「そうだな」


 まずは、ここにいる生徒の安全を守ることが優先。

 それこそ、今使うべきは防御魔法だ。

 そう思っていると、副寮長が魔法を唱えだした。


「アイス・ウォール!」


 魔法を唱えて、大きなバリアを張った。

 大きなドーム状のカマクラみたいなバリア。


「寮生は、ここに入っていろ」


 副寮長に言われるがまま、寮生たちは氷のドームの中へと入っていった。


「よし、これでまずは安心だな!」


 副寮長の魔法を見たハイ・ゴブリンは、おもむろに木を殴り始めた。

 木の幹が折られると、樹木が倒れる。

 そして、ハイ・ゴブリンは倒れた樹木を軽々持ち上げて、振り回してくる。


「副寮長……、まずいですよ……。あんな攻撃を食らったら、このドームが壊れちゃいます」


 こんな時、あの人ならどうするんだろう……。

 ピンチになると、思い出してしまうな。


 先輩だったら、おそらく一瞬で片付けてしまうだろう。


 攻撃魔法、補助魔法。

 どれを使えば上手くいくのか瞬時に判断して。

 僕はまだ知識が足りない。


 とりあえず、今できることをするしかない。

 ここは防御魔法だ。それだけで戦ってみよう。


「アイス・レイル!」


 氷を這わせて、ハイ・ゴブリンを凍らせようとする。

 ハイ・ゴブリンは気づいたようで、瞬時によけられてしまった。


 うっ……。

 こんな魔法じゃダメか。

 もっとだ。


 逃げれないくらいの強力な魔法で。

 僕は、ありったけの魔力を込めて、再度呪文を唱える。


「アイス・レイル!」


 あたり一帯は急激に冷気を帯び始め、一斉に凍る。

 小さいゴブリンたちは、一瞬で凍り付いた。


 ハイ・ゴブリンにも届いたようで、足が凍ったようだった。

 そのことに気づいていないハイ・ゴブリン。

 足を動かそうとしたところで、動けないことに気づいたようだ。


 ――ギギッ。


「そのまま、凍れぇーーー!」


 ハイ・ゴブリンは、みるみる凍っていく。


 ――カチカチカチ。



 すぐに、氷柱ができ上った。

 入学式に見た寮長の樹木よりも、大きいだろう。


 4、5メートルはある氷の柱が出来上がった。


「どうだ! 僕もやればできる!」


 僕の魔力を全開にして放った魔法は、ハイ・ゴブリンはおろか、周り一帯の木々まですべて氷漬けにしてしまった。


 ――カチカチ。


 あれ、ちょっとやりすぎちゃったかな。はは。


 あたりは、シーンと静まり返っていた。

 シーンと静まり返る中、ドームの中から一年生とそのバディたちが出てきた。


「おお! ありがとう。君はやはりすごいよ!」

「い、いやー。どーも、どーも……」


 実力がある人を見ちゃうと自信を無くすけど、僕だってできるんだな。

 少し自信を取り戻しつつあるところで、不穏な音が聞こえて来た。



 ――ドシン。

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