第12話
ああ……、先輩と二人きりって、身が持たないよ……。
何をされるか、分かったもんじゃない。
単純に勉強を教えてくれていただけって言えば、そうかもしれないけれども。
僕が意識しすぎなのかな……。
けど、バックハグなんてさ……。
それは、恋人同士とかそういう関係の人がするわけで……。
僕と先輩は、一緒に暮らしているとはいえ、まだそんな関係でもないし……。
……って。
僕は何を考えているんだ。
男同士だっていうのに。
先輩の顔が綺麗過ぎるから。
なんだか、意識しちゃうな。
うぅ……。
なんでこの学園には、女子がいないんだよ。
ここは、いわゆる男子校だっていうのは分かっているけれども。
宮廷魔導師のエリートを育成するような学校。
相対的に男子の方が魔力値が高い傾向にあったりして、昔から男子だけの魔法学園というのはよくあったらしい。
そして、そんな理由もあって、寮制度というものができている。
新しく女子を入学させるにしても、遠くから通学させるのも危ないし。
女子だけの寮を作るにも、なかなか大掛かりな計画になるだろう。
だから、この学園には男子だけがいるのだ。
男子だけの学校って、男子同士がくっつくのかな。
……って、そんなことを考えてしまう時点で、僕は既に毒されてしまっているのかもしれない。
ダメだな。
どうにか違うことを考えないと。
どんどん深みにはまっていってしまうな。
何か違うこと。
魔法のことでも考えよう。
やはり、けた違いな魔法を使う先輩たち。
あれはどこに秘密があるのだろう。
違う寮の寮長もすごい力を秘めていたし。
他の寮だったら、そういう秘密を教えてくれたりするのかな。
他の寮か。
どんな風になっているんだろうな。
ノワール寮を出て森の中を歩いていると、なにやら声が聞こえてくる。
「アイス・ウォール!」
誰かが森の中で、魔法の練習でもしているのかな?
森の中で少し広まっている場所に人が集まっていた。
ちょっと見てみよう。
僕は草陰から覗いてみる。
一人体格の良さそうな人が喋っている。
「これが、氷魔法だ。炎魔法の方がシンプルだが、防御には不向き。土魔法も風魔法も同様だ」
数人の先輩らしき人がいて、それを一年生たちが聞いているような形だ。
青色のローブを着ているっていうことは、アズール寮か。
「まずは副寮長である俺が、君たちの魔法レベルを見る」
副寮長と名乗る人は、新入生たちの方を見て言った。
「魔法学の試験っていうのは、座学以外にも実技が求められる。最初の試験は、シンプルにモンスター討伐が行られるんだ」
へぇー。
そうなのか。
これは勉強になる。
うちの先輩は、こういうことを全然教えてくれないからなぁ……。
「この試験等も、ちゃんと加点要素が決まっている。それを意識すれば高得点が取れるだろう」
アズール寮の先輩たちって優しい感じだな。
組織的に動いているって感じがする。
防御魔法を使う人たちにとって、それが自然と身についているのかもしれない。
「それぞれの寮にあった魔法をうまく決めることで、得点が加算されていくんだ。うちの寮であれば、防御魔法をしっかりと成立させる。それをアピールすることが大事だ」
なるほどなー。
アズール寮は防御魔法。
ルージュ寮は攻撃魔法、ヴェール寮は補助魔法っていうことかな。
あれ? そうすると、うちの寮はどうなるんだろう?
それは、先輩に聞いてみるか。
「それでは、はじめっ!」
副寮長の掛け声で、一年生たちは魔法をかけ始めた。
「「アイス・ウォール!」」」
あれが、典型的な防御魔法だな。
「いいぞ、いいぞ。魔力を杖の先に集中させて、そこから広げていくイメージだ」
ちゃんと、魔法の練習をしている。
こういうこと、僕も習いたいな。
何事も、基礎が大事だもんね。
――カチカチカチ。
――カチカチカチ。
各自、自分の前に氷の障壁を作り出している。
いいね、なかなかここの生徒は、筋がいいのかもしれない。
優等生ばかりだ。
――バキバキ。
なにやら、凍る音とは少し違う音が聞こえる。
枝を踏んで、折るような音。
――ギギッ。
……モンスターの声も交じって聞こえてくるようだ。
――ギギッ。
――ギギッ。
どうやら、魔法の練習した音によってゴブリンが呼び出されてしまったようだ。
それも一匹ではなく、群れているゴブリンが、彼らの前方からやってきていた。
最近僕が戦った、トロールに比べたらはるかに弱そうだけれども。
ちょうど一年生の練習相手には良さそうかもしれないな。
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