第10話

 先輩は、確かに強いんだよな。

 あの強さはどうかしている。


 それに比べて、この学園に来てから、僕は自分が弱いのがわかってきた。

 クラスの新入生に比べたら、相当強い部類だとは思う。


 周りを見ても、魔力量が僕ほど多い生徒はいない。

 どうしたら、あんなに強くなれるのかな。


 先輩の身体に秘密があるのかな?

 普段は何をしているんだろうな。どんな訓練をしたら、あの強さに……。

 うーん……。


 それにしても、先輩の身体って、魔導師なのに鍛え抜かれていた。

 なんでだろう。

 スラっと細身なのに、胸板だって厚すぎないけれども、しっかりと胸筋だってわかる。


 あと、突起といえばよいのか。

 綺麗だったし……。

 さすがに、あれを見せつけられたら、僕でも固まっちゃうよな……。


 ゴクッ……。


 何を思い出して恥ずかしがっているんだ僕は。


「あぁぁーーーーっ!!」

「どうしたんだ、大声出して」


「あ、いや、ごめん。何でもない」

「そうか」


 そう言うとと、前の席に座っている赤色のローブを着た子は、席を立って友達の方へと向かっていった。

 そちらも、同じく赤色のローブを着ている。

 寮生同士で仲良くつるんでいる人も出てきているんだな。


 というか、クラス内はほとんど同じ寮生で固まってしまっている。

 友達関係の多くは寮で形成されていくらしい。

 僕は、実質一人みたいなものだから。


「なんか、騒がしいけれど、嫌な夢でも見ていたの?」


 けど、寮が違くても僕に話しかけてくれる人もいるようだ。


 緑色のローブを着た生徒だ。

 確か、名前はゲルプ君だ。


「君って、あれだよね? ただ一人、ノワール寮に所属しているんだよね。羨ましいよなー」


 何かを思い浮かべるようにしながら、いいよなって言ってるけれども。

 こいつもまさか、そっちの気があるのか?


「どうだった? 先輩と二人きりだからやりたい放題でしょ?」

「いや、そんなことないけど。初対面だから何もないって……」


 ゲルプは、疑いのまなざしを向けてくる。


「そんなことないだろ、一匹狼の魔術師だよ。やっぱりすごかったんでしょ?」

「え、ま、まぁ。それはすごかったけれども……」


「どんな感じ? モンスターに例えると、何級みたいな?」

「えっと、メデューサっていう感じかな……? 僕は、見た瞬間固まってしまったよ」


 ゲルプも、初めて話すのにぐいぐい来るんだな……。

 あまり引いちゃっても、友達になれないだろうし。

 赤裸々に語るしかないか。


 友達作りはしておいた方が後々良いと思うし。


「今度見せてもらいたいなー! ついでに、君のも一緒にみたいな!」

「えぇ……、いや、僕のは大したことなくて。先輩のは本当にすごいから、見たら頭から離れなくなっちゃうくらい」


 僕の返答に、ゲルプは身を乗り出してきた。


「マジかっ! それはすげーな! 先輩の魔法って、そんななんだ!」

「……ほぇ。魔法?」


 あれ、今までゲルプは魔法の話をしていたのか。

 僕はてっきり、股の間についている身体の突起部分のことを話しているのかと思ってしまっていたけれども……。


「んっ? さっきから魔法の話しかしてないでしょ?」

「え、ああ。そ、そうだよね。魔法だよね。はははは……」


 僕は何を勘違いしていたんだ。

 さっきからずっと、先輩の裸が頭をよぎってしまってる。

 これは良くない。


 そう思っていたら、先輩の声が聞こえた気がした。

 先輩の裸のインパクトが強すぎて、頭の中が混乱してる。

 幻聴まで聞こえてくるなんて……。


「おいーっす。うちの寮生いるかー?」


 幻覚まで見える。

 カッコいい出で立ちをしているなぁ……。


「おっ! ここにいたか一。お前、授業道具忘れてるぞ!」

「あ……、それ、僕の!」


 先輩は、片手にノートを持って、僕にひらひらと見せてくる。


「そうそう、だから届けに来たんだよ。『いずれ最強日誌』って、何か可愛いな、お前」

「いや、それを読まないでくださいよ!……くっ!!」


 よりによって、なんでそんなものを持ってくるんだ。

 荷物の奥底に押し込めておいたはずなのに。


「俺がちゃんと魔法教えてやるから、普通の授業も聞いておけよ。じゃ!」


 クラスのみんなは、僕に注目してきた。

 うぅー……。恥ずかしい。


 けど、僕が目指すのは、いずれ最強だから。

 どうにかして、先輩から魔法を教えてもらわないと。


 ゲルプは興味津々に言ってくる。


「いいね、『いずれ最強日誌』。僕もそういうノート書いてみようかな」

「う、うん。そうするといいよ……」


 僕は、ここにいる誰よりも強くなって、ライセンスをもらってやるんだ。

 それで、いずれ最強になる。


 あの先輩を超えなければ。

 あの、先輩よりも強く、逞しく。

 身体的にも、成長しないと。


「どうしたの? なんだか、急に深刻な顔になって、一人でなんかぶつぶつ言って」

「いや、なんでもない」


 考えが読み取られる魔法とかがなくてよかったって本当に思うよ。

 先輩で頭がいっぱいだよ。


「二人で寮にいるから、先輩を独り占めだもんね、いいなー」

「確かに、そうだと思うけど」


 二人きり……。


 変な邪念は振り払おう。

 どうにか、あの先輩に勝ちたい。


「まあさ。僕は良いと思うよ、その日誌。変なエッチな本じゃなくてよかったじゃん」

「いや、エッチな本の方が百倍ましだったと思う……。先輩に対する、モヤモヤだって晴れるだろうし」


「モヤモヤ?」


 ゲルプは不思議そうな顔をしていた。

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