第9話

 トロールの返り血というのは、すごく気持ちが悪い。

 生臭いというのか、あまり嗅いだことがない獣の匂いがする。

 僕と先輩は、べちゃべちゃな状態で家路へとついた。


「おいおい、出かける前に風呂の準備をしておいてくれよ」

「こんなになっちゃうなんて、考えてなかったですよ」


 先輩は怒っているような口調だが、なんだか楽しそうに見える。

 先輩は、トロールの体液でべちゃべちゃな状態のまま、家へと入っていく。


「え……、先輩……。こんな状態で、家の中に入るんですか?」

「あ? もちろんだろ? 家の中に風呂があるんだから」


「それはそうですけれども。今度外にお風呂を作っておくと良いかもですよ。汚れたまま家に入ると、掃除が大変ですし……」


 僕が先輩に意見をしたからか、先輩はむっと表情を曇らせた。


「わかった。外がいい派なら、前向きに検討する」


 なんだか、やるのかやらないのか。

 どこかの政治家みたいな先送りをされた気がするけれども。

 いつか分からないけれども、その方が良いだろう。

 やっぱり、掃除って大変だし……。


 先輩は、風呂へ向かう途中に脱いでいく。

 段々と、はだけていく先輩。


 風呂の前へ着くころには、丸裸になっていた。


 先輩は、脱いでもすごい……。


 背中にはしなやかな筋肉がついており、引き締まった腕や足にも筋肉の筋が見える。

 鍛えているわけではないだろう。

 普段からモンスターと戦っているのか、自然とつけられたような筋肉だ。

 男の僕が見ても、惚れ惚れするような色気が溢れている。


「ん? 何じろじろ見てるんだよ。ほら、お前も一緒に入るんだよ」

「え、いや、何を言ってるんですか、先輩。お風呂って一人ずつ……」


 僕が拒否すると、先輩は振り向く。


「せ、先輩。すっぽんぽんなんですから、こちらを向かないでくださいよ」

「あ? なんでだ?いまから一緒に風呂入るって言ってるだろ」


 こちらへ近づいてくる。

 目線を真っすぐ前に向けると、そこには先輩の股間が見えるわけで……。

 そんなもを、なぜだか僕は見入ってしまう。


 人のモノをマジマジと見たことはなかったけれども、先輩は股間についているモノまで美しいように見えてしまう。


「おいおい、メデューサに睨まれたみたいに固まってるんじゃないぞ。早く風呂入るぞ? お前も汚いんだからさ。細かいこと気にせず」

「ひぃーーー!」


 身長差も、体重差もある先輩に勝てるわけもなく、僕は脱がされる。


「モンスターの臭いを付けて、家の中をうろつけないだろう?」

「それは、一理ありますけれども……。ちょっと。タオルくらい欲しいですよ……」


「それがあればいいのか? じゃあ俺の貸してやるよってもいいけど。タオルなんてなくても、体洗えるだろ」


 先輩は、僕を脱がし終えると、満足そうに仁王立ちして僕を見てくる。

 脱がされた僕は、その場に倒れながら、先輩を見上げる。


「せ、先輩。何で二人で裸なんですか」

「なんだよ。これから一緒に暮らすんだろ?まずは裸の付き合いっていうやつだ」


「それは、早すぎるってものじゃないですか」

「大丈夫、大丈夫。優しくするから」


「……何をやさしくするんですか。やだやだ!」

「一緒に背中流しあおうぜ」


 先輩は僕の後ろに回り込むと、がっちりとホールドしてくる。

 でっかいテディベアのぬいぐるみを持つような形で、僕のことを持ち上げる。


 先輩の惚れ惚れするような肉体美は、全身にわたっている。

 普段は見えないようなところも……。


 僕は、どうしてこんな人と二人きりなんだろう。

 何か過ちがあったら、校長先生ごと学校を訴えようかな。


「ん? なんだよ、俺と風呂に入るのが嫌か?」


 少し、語気を弱めて先輩が聞いてくる。


 後ろから僕の顔を覗き込んで。

 なんでこの体制で先輩に甘えられる感じになっているんだ。


「いや……、別に嫌ではないですけれどもて」

「良かった!」


 爽やかに微笑む先輩。

 僕は、なぜだか心風が跳ねるように鼓動が高まるのを感じた。

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