第8話

「先輩、危ないですっ!」


 トロールが棍棒を振り下ろす前に、僕は防御魔法を発動させる。

 先輩の後ろに、氷の障壁を作る。


 それくらいなら、今の僕にもできる。

 一瞬で出来上がったからなのか、透き通った氷であちら側が見える。


 トロールが棍棒を振り下ろすが、氷の障壁はびくともしない。

 逆に、トロールが弾かれている様子が見える。

 無我夢中で発動させたけれども、ただの氷を硬化させるようなもの。


 繊細な技術はいらない。

 今の僕は、こんなものしか作れない。

 自分の魔法レベルが低いことが身に染みてわかった気がする。


 僕は魔力量が多いと思っていたけれども、ただそれだけだったのかもしれない。

 体力だけはあるような人と同じ。

 ただ、魔法が多く使えるっていうだけなのかもしれない。


 腕に力を入れれば、筋肉が浮き上がるように。

 それと同じことだ。


 空間に、魔力を込めれば良いだけ。

 そんなことに、僕は徳下になっていたんだ。



 魔法学園へ来てみてわかった。

 上には上がいる。


 全然僕の届かないところに、先輩たちはいるんだ。

 そんな先輩たちに、追いつけるように僕もなりたい……。


 先輩が微笑んでくれた。


「後ろのガード、サンキューな!」

「……はい!」


 足がすくんで何もできないけれども、どうにか僕も。

 先輩の役に立てるようになりたい。


 今までは、隠れてしか魔法が使えなかったけれども、これからはこの学園で魔法の練習ができる。

 今からが僕のスタートだ。


 素早く、より強固に、そして広範囲に。

 僕と、先輩の周りを大きく囲んだ。


 先輩は、僕の方を見て嬉しそうに笑う。


「思った通り、お前の魔力はえげつないな。助けられたぜ、サンキュー!」


 また先輩に褒めてもらった。

 戦闘中だというのに、頭をなでてくる先輩。


「僕にだって、このくらいできますよ」

「はは、えらいえらい。俺は良い後輩を持った」


 ――ウオォォーーーー!


 トロールたちは障壁に向かって攻撃を繰り返してくる。

 僕が作り出した、即席の氷の障壁では、やはりガードはしきれないようで。

 段々と亀裂が入っていった。


「お前の働きに感謝して、少しだけ魔法を借してもらうぞ」


 先輩は、僕の作り出した魔力結界を触ったかと思うと、結界の外側、トロールのいる方に大きな突起が表れた。

 洞窟の上に垂れ下がっているような、鍾乳石。

 それを何倍にも大きくして、尖らせたような突起がトロールを貫いた。


「俺の後輩の力を舐めてもらっちゃ、困るぜ」


 トロールは、胸に大きな穴が開いていが、まだ動けるようだった。

 貫いた岩から離れると、胸に空いた穴は塞がっていった。


「先輩、あいつ、効いてないです!」


 先輩は、やれやれといった仕草をして言う。


「これだから。トロールは厄介なんだよな。一気にとどめを刺さないとだな。一回結界を解いてくれ!」


 僕は言われるまま、防御魔法を解除した。

 トロールたちと僕たちとの間には、何も壁がなくなった。


 先輩は僕の後ろに回り込んできた。

 後ろから僕を抱くようにして、僕の肩の上から胸当たりを抱きかかえた。

 いきなりの先輩の行動に、ドキリと胸が弾む。


「い……、いきなりなんですか」

「変なこと考えるんじゃねえよ。今の俺は魔力切れだから。お前の力であいつを倒すってだけだ」


 先輩は、僕を抱く体制のまま言ってくる。


「さっきみたいな魔力を放出してくれ。俺が形状を変えてあいつに突き刺す」

「は、はい」


 僕はありったけの魔力を放出した。

 今の僕にできるのは、これだけだから。


「お前は、やっぱりすごいよ。こんなこと、並大抵の人間にはできないからな」


 僕と先輩の前に、再度大きな尖った岩石が現れた。

 今度は、何本も、何本も無数にある。

 岩石とは思えないうねりを見せて、モンスターへと向かっていった。


 すごい速さで、一本目の岩石がトロールに突き刺さった。

 そのあと連続して、何本も何本もモンスターを貫いた。


「良し!」


 突き刺さった岩と岩が擦れあい、それによって千切られたモンスターの破片があたりに飛び散った。

 岩と岩がからみあって、オブジェと化していった。


「うん。これは、100点だ!」


 先輩は、僕の頭を撫でてくれた。

 この先輩から褒めてもらえるのって、なんだか少し嬉しいかもしれないな……。

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