蒼き夜・テンゲル /致命的な友人(Fatal Friend)2


空に、青い一筋の光が見えた。その光はどんどん近づいてきて、街の一角に落ちてきた。業火がビルを包み、すぐに溶けていく。


その青い光は、次々と空に浮かび始め。まるで流星群のように、夜空を包んだ。突然、夜空全体が青く輝いたのだ。



青、それは空の象徴。


蒼天、それこそが遊牧民族の象徴。



「火矢だ!」、中国人が叫んだ。誰もがその意味を知っている。この蒼い矢を見て、誰が放ったか答えられない者は、このユーラシアで、赤ん坊以外にはいない。

三歳を超えるころにはもう、この矢の意味を知っている。


中国人は、キリストが生まれる遙か昔より、その恐怖を知っている。

中東に住む者も、インドに住む者も、欧州に住む者も。


誰もがその蹄と矢の音を恐れた。


メソポタミア、エジプト、ローマ、ゲルマン、ポーランド、ロシア、イラク、イラン、シリア、インド、中国、朝鮮。


無数の国が、倒れていった。


いくつの文明が、いくつの国が、いくつの街が、いくつの民族が、彼らの手によって滅んだのだろう。


数え切れないほど数多の文明が、彼らによって焼き払われた。


冥府の王。あまりに多くの鉄馬と、この世のほとんど全ての騎兵を持つ魔王。

マイナス70度にもなる、全ての生命が生きたまま凍り付くその極北の冥府から、最精鋭が来たと。


この地上で最強の陸軍部隊。

第一親衛十三トゥメン軍。十三万にして、数百万にも匹敵するその軍勢は、この街を確実に焼き払い、誰も逃れられないと。


千年の時を経て、彼らが、彼らを抑圧した世界に復讐しにきたということを。


「モンゴルだ!モンゴルが来たぞ!」、僕は叫んだ。


「騎兵だ!」


混沌は加速し、四方八方から人が押し寄せる。


蒼が、降り注ぐ。


コンクリートや鉄、最新の防火素材など、とても燃えるような素材でもない建造物が、次々と燃え始め、建物が崩れ落ちた。今の建築なんて、100年前とは大違いだ。ガソリンをばらまいたって、ほとんど死にはしないはずなのに。

まるで藁葺き屋根の村を焼くようだ。


モンゴルの軍歌が聞こえてきた。きっと、なんらかの放送だろう。

共産時代のソ連やモンゴルの軍歌は、帝国になった今でも、歌詞を変えて使われている。

「モンゴル兵士の歌」、僕は口を結んだ。


彼らの放送が始まる。

言わなくても、僕は空で覚えている。出だしはこうだ。


「ユーラシアと諸民族、それに民族統一と民族独立の果実を防衛する、栄えある我らクリルタイ条約機構軍、それにモンゴル連邦帝国陸軍第一親衛十三トゥメン軍は、腐敗した差別主義者、中華主義の中華連邦に、無慈悲かつ駿馬落雷のような速度で、蒼天そのものかつ全ユーラシアの父なるテングリの命を受け生まれた、蒼狼ボルテ・チノと白鹿コアイ・マラル、その遠き子であり、祖はチンギスである黄金氏族、ボルジギン氏の由緒ある家系にして、ユーラシア諸民族代表かつ全民族の議会、大クリルタイから選出された黄金の精神を持つ、ユーラシア諸民族独立の先鋒兵士にして将の中の将、全ユーラシア部と帝国の大ハーンである蒼き英雄シドゥルグ・ハーンからの鉄槌を下すために、この街に集結した・・・・・・」


僕のつぶやきは、一言一句すべて合っていた。彼らは、歌を歌い、叫び、演説をしながら、人々を恐怖させる。


人々は急に逃げ惑い始め、群衆が暴動のように移動し始めた。青い火矢を一つ放つだけで、人々を恐れさせるには充分だ。

全世界の人間が、この青い火矢を恐れる。

青い火矢の後には、騎兵隊が来る。サーベルを振りかざし、軍民を問わず虐殺する。


彼らは、恐れさせるだけで人を死に追いやる。心を砕き、破壊し、征服する。


このままだと、何人の圧死者が出るのだろうか。もう人々の一部は、彼らの力のみによって浮き上がり、何人かはぐったりとしている。もう死に始めた。


「青い火矢。モンゴル軍だ。すぐに騎兵隊が来る」、僕の声は緊張で震え始めている。心臓の鼓動が上がり、制御ができなくなってきている。


歯がかちかちと鳴ったのを、噛みしめてごまかせると思ったが、より強い音が鳴った。


https://www.youtube.com/watch?v=AX9mhouBfCM

モンゴル兵士の歌。(現代モンゴル軍軍歌)


https://note.com/kyomunomahou/n/na148d46614e0

キャラクターの設定絵。


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