蒼き夜・テンゲル /致命的な友人(Fatal Friend)

まだ旧正月には程遠いというのに、そこら中で爆竹の音が鳴り始めた。


最初はモンゴル軍が来たのかとも思ったが、そうではなかった。あまりにも膨大な量の爆竹だ。耳がつんざかれるようで、

百年前に人々が言っていた、夏の蝉たちのうるささよりも、はるかにうるさい。


煙が目と喉をいぶした。辛すぎる。もはや煙草なんて誰も吸っていないような時代に、こんなに煙を出しては体に悪いのではないのだろうか。


「さぁもうすぐ祭が始まります。後数分」


「楽しみだね」


市が保有する、AIのアナウンスが始まる。最近、国レベルだけでなくても、大都市はだいたいAIを保有している。

市のどこかに、センターがある場合もあれば、遠距離において、通信を飛ばしてもらう場合がある。

中国はAIが支配する国だ。世界で最もAI独裁に近い国でもある。

技術は全てを救うが、中華連邦のモットーでもある。

そして、それはモンゴル人にとっては最大の勝ち筋だ。


モンゴル人は、極寒の草原で、昔のロシア軍のように、先端技術を無効化するすべを日々鍛えている。


バイザーが震え続けた。アプリには、大量の通知が貯まっている。発信者は、名無しの捨てアカウント。

ただずっと送られている。


「一体なんでこんなに送ってくるの?相当僕はカモだと思われてるのかな」


「そういうこともあるでしょう」、晩霧は、少し緊張した面持ちとなった。その顔を見て、僕も気持ちを入れ替えた。


「まさか、本当に戦争があるかもよ」


「移動した方がいいような気もしてきました。どうしますか」


「プログラムが終わったら南に出ようか。もし来るなら、1000キロは南に下がった方がいいかも」


ドローンを飛ばした。僕たちが映るようにしてある。これで、全世界にこの中国でも大きな祭を放映する。

この祭は、中国でも五本の指に入るぐらい人気らしい。


「紅夜祭は、まず最初に、ホログラムの鯉のぼりの展示を行い、次にドローンの集団飛行、最後のプログラムは、最新技術を用いた特別展示です!」、ナレーターが叫んだ。


そうして、十分もたたない内に、ホログラムが空に光り始めた。


「始まります」


空には、ホログラムの鯉が浮かび、空を駆けるように飛んでいき、龍となった。その龍は街中を飛び回っている。


ドローン達が光り始め、空中で一糸乱れぬ飛行を始めた。

光が交差しては、離れていく。

様々な動物たちが空で泳ぎだしていた。



僕たちはカフェで出された、オーガニック、つまり天然食材100%のケーキを食べながら、それを眺めていた。

ケーキは、AIが計算した完全な調和をもたらす甘さに従って製作され、シェイクは、口の中でシャッフルされたトランプみたいに味が変わっていく。


そうして、すぐに龍とドローンが空で戦うようにして、うねり始めている。

まるで神話のような戦いが始まり、ホログラムがそこら中でうねりはじめる。


ついには季節外れの雪まで降ってきた。それはたった数分で止まり、次には雨が降り、それも数分で止まる。


宇宙から、暖かい光がやってきて、中央広場が一気に明るくなった。


「これは最新技術の天候操作技術の一貫であり、これは将来的な宇宙開発にも利用されるとのことです。衛星レーザーは、宇宙のどこにでも、日光を配達できます。どれほど暖かいか、感じてみてください」


本当に、日が当たっている場所と、そうでない場所で、全く色が違う。

秋の夜空といえども、この太陽の下ならとても暖かい。

色は、蒼、赤、黄、色とりどりに変化していく。


「中国の宇宙技術は凄いね」


「AIと宇宙に、中国は力を注いでいます。軌道エレベーターは、南太平洋に元々権利を持つ欧米が強いですからね。

宇宙技術でもジャンルごとにどの国が得意とかそういうのも別れてるんです。中国の宇宙はこのジャンルが強いです。月や火星の開発を見据えているようですね」


「へぇ。じゃ、そのうち火星にニュー上海が出来るって事?」


「リトル上海かもしれませんよ。人類の進化は凄いですね。我々は、基本的には個人技程度しか出来ませんから。宇宙時代になったら流石に、もうお役御免かもしれません」


「このままどんどん技術が発展してったら、皆いつか最高の暮らしが出来るのかな」


「そうなったらいいですけどね」、晩霧は苦笑した。


祭の様子を動画で中継していると、急に接続が途切れた。空の龍達は消え、ドローンが次々と地面に落ちてきている。

あたりに次々とドローンが降り、何人かはそれで卒倒した。


「龍が消えた」


「不調か?」


人々が次々と、歌のように口ずさむ。一気に、視界が中国語になったのだ。どこを見ても中国語だらけ。看板が中国語だ。さっきまで日本語で表示されてたのに。


「スマートグラスも繋がらない」、僕は言った。グラスを外し、叩いてみたって変わらない。


晩霧は中国語を喋っているが、理解できなかった。弾むような、綺麗な声だ。


「翻訳できない。日本語で話せる?」、彼は日本語を充分理解している。

非人間族の多くは、5~30か国語を全く支障ない程度に話せる。


上から人口上位15か国語が話せれば、地球の人口の半分以上と話すことができる。

今ではAIがあるから、あまり役立つことはない能力となってしまったみたいだけど。


「ああ、そうですね。失礼しました」、晩霧は、訛りの一切ない日本語で答えた。


「もう少しだけ様子を見る?」


「そうですね。ただの不調と言う気はしませんが」


数分もしないうちに、街の向こうで、光が飛び始め、轟音が少しずつ近づいてきた。

あの轟音が聞こえた。

空を切り裂く、ジェットエンジンの音。


「向こうから人が押し寄せてくる!」


次々と人がなだれ込んできて、中央広場の人々は滅茶苦茶に押され始めているようだ。


「うわ。押されてる」


「あれでは圧死しますよ。くそ。軽い避難誘導をします。待っててください」


そうしているうちにも、人々は次々と広場に集まってくる。


晩霧が空中に避難指示を出し、念話で音声をばらまいた。

そうして、人々の混雑が解消され始めた。


しかし、それはあまりにも儚いものだった。

あまりにも、一瞬で、その望みは消えていった。





https://note.com/kyomunomahou/n/na148d46614e0


キャラクターの設定絵。


https://twitter.com/kyomunomahou


Twitter


https://www.youtube.com/@user-mj6in1fr4s/videos


YOUTUBEアカウント



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る